デジタルトランスフォーメーションは目新しい概念ではありません。それではなぜいまだに、デジタルトランスフォーメーションが話題に上るのでしょうか。航空業界はイノベーションをいち早く取り入れた業界の1つですが、その後はその勢いが失速してしまっているような状況です。航空業界を広く支えているのは、縦割り型のサイロ化したレガシーシステムです。そこにあるデータは、航空会社が自社の運営、収益性、顧客サービスの向上を目指す上で「成功のカギ」となる可能性を秘めています。しかしそれらのデータは、データ管理ソリューションに統合されておらず、すべてのビジネスユーザーが利用できる状態にもありません。
Ciriumの使命は、航空業界がデジタルトランスフォーメーションを加速していけるように支援することです。言い換えれば、そうした縦割り型のサイロからデータを解放してデータのアクセス性を高め、航空会社、空港、旅行会社がそこから大いなる力を秘めた分析インサイトを得られるようにすることです。
Ciriumは2021年7月15日、このトピックについて考えを深め、専門家パネルからのインサイトを得るため、バーチャルイベント「Cirium LIVE:フライトのデジタル未来」を開催しました。ゲストパネリストとしてJudith Pitchford氏(AWS旅行部門代表)とDaniel Stecher氏(IBS Software航空事業担当バイスプレジデント)にご参加いただき、Ciriumの製品管理責任者Jim Hetzelと製品部門シニアマネージャーのNiha Shaikhとともにお話しいただきました。
Cirium LIVEバーチャルイベントをすべてご覧になるには、こちらをクリックしてください。
イベントで浮き彫りになった7つの重要トピック
1. 航空業界はこのままでいることはなく、より良い方向に変わる
「弱さとは危機の中で露呈するものです。航空各社は今後の成長と将来への備えに関心を向けており、COVID-19によってクラウドへの移行が加速しています。航空会社は今、これまで以上に少ない労力でより多くのことをしようとしています。設備投資(CAPEX)モデルから事業運営費(OPEX)モデルへと移行しています」とPitchford氏は言います。
旅行需要が落ち込んだとき、航空会社は、顧客体験や顧客満足度そしてロイヤルティをそれぞれ向上させる道を模索し始めました。さらに、運営手法やオートメーションの取り組みも強化するようになりました。
「COVID-19は私たちの業界が直面する最後の危機というわけではありません。航空会社にとって必要となってくるのが、機敏な対応力と新しいものの見方です。できない理由ばかりをいつも耳にしますが、COVID-19のパンデミックがきっかけとなり、できなかったことができるようになった、という事例もあります。」
IBS Software航空事業担当バイスプレジデント、Daniel Stecher氏
Jim Hetzelはこう話します。「航空業界は、従来行っていたフライトの計画、販売、貨物輸送の方法を調整することを迫られています。基礎を成すデータの作成にこれまで使用してきた仮定の多くは、もはや当てにできません。航空会社は今こそ、リセットし再起動すべき時です。」
2. 航空業界の盲点
航空各社は、いち早くイノベーションを取り入れるアーリーアダプターでした。1960年代には基幹システムの大型コンピュータ、1970年代初頭には流通システム、1990年代後半にはeコマースというようにです。しかし、航空会社は複雑な組織でもあり、A地点からB地点までのフライトを運航することは一筋縄ではいきません。そのため、レガシーシステムがこれまでずっと生き残ってきたのです。
Pitchford氏は言います。「システムの変更を促すほどの、十分に大きな現実的な利点がありませんでした。事業の拡大や合併に動く航空会社が出てきたことで、業務が複雑化し、そのため、まだ存在していない問題に対して資金を投じることを多くの人が疑問視しました。何かを悪化させるリスクを負ってまでモダナイズ(最新のものに置き換える)を進める必要があるのか、と。しかし実のところ、これが最大の盲点なのです。」
航空会社はこれまで常に、あらゆる混乱の影響を受けてきました。天候の問題、地政学的な出来事、労働組合のストライキなどです。しかしこれらの経験をもってしても、COVID-19という未曽有の事態に備えることはできませんでした。いつ、どのように旅行が再開されるのか、出張客はどのくらいいるのか、見通しは不透明です。
レガシーシステムの中には、業界に身を置く私たちが生まれる前から存在しているものさえあります。航空各社が他社に先んじ、差別化を図り、顧客のためにイノベーションを起こすには、機敏な対応力が求められます。これこそが、新しい世界で航空会社が生き残っていく方法です。Pitchford氏は言います。「機敏に動ける企業は市場の変化に比較的よく適応でき、成長が期待できます。幸いなことに、この機敏性は各社がこれから身に付けていくことができます。おそらくこれが逆境にあっての明るい兆しだといえるかもしれません。」
3. カギとなるのはコラボレーション―効率的な運営と顧客体験のために
「航空業界は、航空会社、空港、ANSP(航空管制サービスプロバイダー)の各組織内だけでなく、航空会社、空港、ANSPが構成するネットワーク全体で、コラボレーションに関するカルチャーの変革に着手しています。この三者は、旅行者の体験を向上させる上で、トップ3の大きな影響力を持っています」と語るのはNiha Shaikhです。
航空業界にはつながりがあり、互いに影響を与え合っています。空港で起こることは、航空会社で起こることに影響します。しかし、各社の効率性を高めるような形で業界がつながっているわけではありません。
「問題なのはテクノロジーではありません。テクノロジーはすでに存在しています。問題は、データを共有し、データの所有権に同意し、その上で最終的に目指すものが、旅行者にとって最善のものであるかを確認できるかということにあります。航空業界にはデータは潤沢にあるのですが、インサイトが足りません。」
Cirium、製品部門シニアマネージャー、Niha Shaikh
コラボレーションは、顧客ロイヤルティを高めるカギでもあります。旅行がこれまでとは異なるものになる中で、ロイヤルティプログラムも内容を変える必要があり、乗客数が少ない中で提供するメリットもこれまでと異なるものを用意する必要があります。これについて、Stecher氏は次のように述べています。「航空会社は乗客のために日々革新を起こしていかなければなりません。ソフトウェアはロイヤルティプログラムの改善に役立ちますし、ロイヤルティスキームに対する非常に機敏な開発とより革新的なアプローチをけん引します。」
4. 安全なデータ共有
セキュリティとデータプライバシーは紛れもなく航空業界の生命線です。データの保護はこれまで以上にさらに重要になっています。
「航空各社がクラウドへの移行を進めるにつれて、データ保護の重要性は現在さらに広く理解されています。AWSではプライバシーとセキュリティに絶えず気を配り、顧客データを保護するために高度な対策を実装しています。これには規模の大きさがものをいいます。当社はアクティブな顧客を数百万抱えています。何者かによる悪意ある試みから私たちが学んだことはすべて、顧客にメリットとして還元されます」とPitchford氏は述べています。
多くの企業はこれまで、データは安全に守ることができると証明しています。しかしこれはどちらかというと、データの使われ方に関して言えることです。
「特にクラウドテクノロジーとクラウドバンキングの登場により、データを共有せずに機能することはもはやできなくなりました。現在、数多くのサイバーセキュリティフレームワークや認証プロセスがあります。これらを利用しないことによるリスクを考えると、これらを利用することは、はるかに大きなメリットがあると考えます」とShaikhは述べています。
5. プランニングとレベニューマネジメントのデータサイロを解体する
「商業計画プランナーやネットワークプランナーが新しいスケジュールを作成する際には、効果的なスケジュール設定を確実に行うという大きなプレッシャーが生まれます。そしてそこから、収入につながる無駄のない効率的なスケジュールが作られます。より弾力性のあるスケジュールを構築するには、日常業務において何が起きているかを把握し、そこで得られた数値をビジネスのネットワークプランニングに組み込む必要があります。」
Cirium、製品管理責任者、Jim Hetzel
データを使用しさらに多くのコラボレーションにつなげることで、実際のフローやブロックタイムを把握できるようになります。これが実現すれば、商業計画プランナーにとってより現実に即したスケジュールを構築できることにつながります。
Hetzelの考えによると、実際の定量化可能なデータがネットワークプランナーに渡れば、今あるものよりもさらに細かく現状を反映したスケジュールを作成できるようになります。またそれと同時に、スケジュールが持つ弾力性を維持することもでき、混乱を回避し、より効率的な運営の推進につながります。これはもちろん、燃料の燃焼効率の改善にもつながり、航空各社が目指す持続可能性に関する目標の達成を支援します。
Ciriumはパートナーと連携して航空会社の運用改善に取り組み、フライトデータと合致する燃料燃焼モデルやCO2排出モデルを開発しています。IBS Softwareでは、不要なCO2の排出をなくすべく、航空機の経路最適化テクノロジーを航空各社に提供しています。
6. 他業界から学べる多くのこと
「航空業界が多くを学ぶことができるのが、モバイル通信業界とシリコンバレーで操業するすべての企業です。これらの企業は素晴らしいエコシステムを構築し、世界各地の数十億の顧客を管理しており、顧客が何を望んでいるかを正確に把握できているからです」とStecher氏は述べます。
Shaikhは銀行セクターを例に挙げ、MonzoやStarlingなどの意欲的な銀行が出現してきたことについて、次のように説明します。
「厳しい規制があるという点で、航空業界と銀行には似ている点が多くあります。MonzoやStarlingなどの銀行は、既存のレガシーシステムから離れ、新たなシステムを構築しました。現代の消費者のためにテクノロジーを向上させ、クラウドテクノロジーを用いてデータ管理におけるセキュリティ上の課題を克服しています。」
7. デジタルファーストで成長する航空会社
多くの航空会社は、デジタルトランスフォーメーションを取り入れています。それは、意思決定にどのデータを使用するのか、そしてAWSクラウドへの移行、IBSソフトウェアによる航空機、パイロット、客室乗務員の管理など多岐にわたります。
「AWSは、大韓航空、カンタス航空、ライアンエアー、サウスウエスト航空、ユナイテッド航空など、COVID-19のパンデミックを通じてデジタルトランスフォーメーションの導入を進めてきた、多くの航空会社と連携しています。データやテクノロジーをコストセンターとして抱えるのではなく、成長のドライバーとして用いることが、ビジネス上の意思決定としてあるべき姿です」とPitchford氏は述べます。
Stecher氏によると、American Airlines Cargoはリーダーシップにおけるお手本(ロールモデル)で、パンデミックが起こる前からビジネスの変革を追求していました。同社が目指したのはITサイロの解体で、90ある異なった貨物システムをわずか10まで減らしました。同社のこの動きは、パンデミックの最中でさえも機会を探していたということになります。Stecher氏はこれを「抜本的な模様替え(bringing the house in order)」と表現しました。
データの観点では、あらゆる場面でデータには力があるとShaikhは強調します。「データから得られるインサイトを入手する必要があります。フライトの全工程で何が起こったのか、データを見れば状況が一目でわかるようにします。何が起こっているのか状況を真に理解するには、スケジュール、フライトプラン、その他のACDMに関するデータサイロを解体する必要があります。そうすることで、要所要所における意思決定において事が有利に運びます。」
また、現在市場への参入が増えているスタートアップ航空会社(Avelo、Breeze、Connect Airlines、EGO Airways)に関して言えば、彼らには明確な利点があります。こうしたスタートアップ航空会社は、ゼロから始めることができるのです。
「スタートアップの航空各社には、需要をシステムの活用に結び付ける上で、コスト上の利点があります。つまり、必要なものだけを使用でき、伸縮性があるということです。これにより、需要に基づいたスケールアップやスケールダウンができ、ものの数分でサービスを稼働することができます。彼らはさらに、イントラ管理にリソースを奪われることなく、どうやってビジネスを差別化し、顧客のためにイノベーションを起こすことができるのか、その方法の策定に集中することができます。」
AWS旅行部門代表、Judith Pitchford氏
従来のレガシーシステムに頼る航空会社に向けた今回のパネルからのアドバイスは、まずはモダナイズを進めること。そして運営の効率を最適化して向上させ、旅行者のエクスペリエンスを改善する手段として、データを使用することを目指してほしい、ということです。
オンデマンドの「Cirium LIVE:フライトのデジタル未来」バーチャルパネルの視聴はこちら。