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Ascend Consultancy, 航空専門家の視点, 航空機投資, 航空機業界の動向予測

Ascend Consultancyによる2022年3月の最新市場情報に関するウェビナーで示された5つの視点

April 4, 2022

Ascend by Ciriumは最近、航空業界の現状と、ロシアとウクライナ間の紛争の影響についてのウェビナーを開催しました。ここで示された5つの主な洞察的知見をご紹介します。

Ascend by Ciriumのグローバルヘッド・コンサルタントのRob Morrisは2022年3月17日(木)、シニアコンサルタントのMax Kingsley-JonesRichard Evansと共に、航空業界の現状について議論し、ロシアとウクライナ間の紛争が業界に与える影響を評価しました。Ciriumの最新データを活用しながらライブ配信で行われたこのウェビナーでは、以下の5つの洞察的知見が示されました。

制裁措置によるロシアのリース済みフリートへの影響が顕在化している

Rob Morris, Ascend by Cirium

2022年2月24日(木)にウクライナ紛争が始まって以降、西側諸国は、ロシアの経済と民間航空部門を対象に制裁措置を適用してきました。36ヵ国が、ロシアが所有または関係する航空機の領空飛行を禁じ、ロシアも同様の措置を講じて対抗しました。EUはオペレーティング・リースのリース会社に対し、3月28日(月)までにロシア系航空会社へのリースを終了するよう求め、さらに資産回収のためにその後30日間の追加期間を設定しました。

Ascendは、リース料と現行の市場価値への影響を理解するため、回復への取り組みの進捗状況を追跡してきました。ウェビナーを始めるにあたり、Rob Morrisは、Ciriumのフリートおよび追跡データに基づく分析について説明しました。

「紛争が始まった当初、ロシア国内には航空会社のフリートが980機あり、うち515機は国際的リース会社がリースしていた機材でした」と、Robは説明しました。「EUは2月28日(月)に制裁措置を講じました。これにより、そうした機材の運航は阻止され、リースも3月28日(月)までに終了することが義務付けられました」

Ascendの分析により、紛争開始時点にロシア国外にあった機材が39機、特定されました。これらの機材は、恐らくは(その存在場所に基づいて)リースの返還プロセスに入っています。さらに、紛争開始以降にロシアから回収されたとみられる38機が特定されました。合計すると、80機近くが転売される可能性が高くなっています。つまり、現在は約430機のリース機材がロシアに残っていることになります。

Ascend by Ciriumの発展的な仮説としては、この紛争がリース料や価値にとって、当初考えていたほどには重大な要素とはならないということです。機材の配置先としてのロシア市場を失うという点はさておき、短期的には限られた数のリース機のみが、市場に出ることになりそうです。OEMの機材については、今後18ヶ月の間にリプレースが必要となる地域の航空会社向けに、同様の数の受発注が発生するでしょう。

ロシア国内のリース機材の見通しはなお不透明である

ロシアに関係する資産の規模や状況が明らかになりつつある今、依然として同国内に存在する機材には次に何が起きるのでしょうか?Robは以下のように考えています。「私の当初の考えでは、なおロシア国内に存在する430機ほどの機材は、世界のポートフォリオから永遠に消え去ってしまうかもしれない」

ボーイング、エアバスおよびその他のOEMは、パーツやサポートサービスの供給から手を引きました。つまり、ロシア国内を飛行する航空機が、国際的なメンテナンススケジュールや稼働スケジュールから外されているのです。このような機材が復帰し、世界のリース市場のポートフォリオに戻ったとしても、転売される能力には大きな疑義が投げかけられることになります。

とはいえ、Ciriumの追跡データは、ロシアの機材が引き続き運航されていることを示しています。同国の商用機材については、稼働を停止するというよりも、むしろその稼働率が低下しています。英領バミューダ登録の745機が、英民間航空安全庁(CAA)によって耐空証明が停止されているにもかかわらず、そのような状況になっているのです。厳密に言えば、耐空証明が停止されると、航空機の飛行は禁止されるはずです。

Robは、こうした行為が、機材自体の状態や保険状況を超えて行われており、リース会社や保険会社との関係を危うくしたと判断しています。「リース資産の観点からみれば、ロシアは国際法を逸脱して行動し、長期的な関係に悪影響を与えているようです。この結果、地政学的リスクの力学が変わることになるでしょう」と、Robは結論付けました。

マクロ経済的な影響が、制裁措置の効果を上回る可能性がある

ロシアは、世界の有償旅客キロ(RPK)の4.5%を占めているため、世界から孤立することの影響は大きいですが、航空業界の幅広い回復という点ではさほど重要な国ではありません。しかし、ウェビナーの主催者たちは、業界の回復を脅かす可能性という点では、紛争が与えるマクロな経済的影響の方が、制裁措置によりロシアの航空業界が直接受ける影響よりも大きいということで意見を一致させました。

こうしたマクロレベルの経済的要因、特に燃料・エネルギー価格、インフレ、旅客の信用度の要因は予測が難しいのですが、そのすべてがコストを増やし、旅客数の回復を遅らせる可能性があります。紛争が誘発するブレント原油価格のボラティリティは、航空会社にとって不確実性を著しく高める要因となっています。多くの航空会社には、ロシアの空域を迂回することになり、フライト時間が長くなってしまうため、なおさら状況は深刻です。

この段階で、紛争が業界の回復の勢いを弱める可能性が高くなっていると考えられます。そして、シニアコンサルタントのRichard Evansによると、さらにいっそうの損害が出る可能性もあります。

「私たちの回復シナリオは、紛争の広範な影響によって脅かされる可能性があります。航空会社は2022年に入り、より順調に回復に向かっていました。その回復基調は、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大によってやや弱まったわけですが、ウクライナ紛争の影響がどのようなものとなるのかについてはまだ分かっていません」

新型コロナウイルスは依然として重要な問題となっている

ウクライナ紛争がニュースの見出しを独占する一方で、民間航空業界はなお、新型コロナウイルスに対する旅客や規制当局の反応や対応に支配されている状況です。このウイルスが業界に与える影響は、よく理解されてはいますが、不透明感も残っています。Ascendの主要な指標を見ると、その回復には地域ごとにばらつきがあり、しかも回復自体が脆弱であることが示されています。

このことは、中国と香港において明らかです。新型コロナウイルスの感染再拡大と、それに対する政策的手法により、回復の流れが反転しているのです。

Max Kingsley Jones, Ascend by Cirium

「中国と香港は、ゼロコロナ政策を追求し、海外渡航に対して門戸を閉ざし続けてきました。しかし、この政策にもかかわらず、感染者数が急激に増えてしまったのです」

「中国と香港は、市場の早期開放という点では、幸先があまりよくありません」

Ascend by Ciriumの日々のフリート追跡データでは、中国のロックダウンの影響が示されています。新たな国内旅行の制限が実施されたことにより、ここ数週間で運航実績が大きく落ち込んだのです。3月半ばに追跡されたシングルアイル機の運航機数は、2,100機強でした。昨年には最高で2,900機に達したにもかかわらず、2019年3月の水準からは19%減少しています。Ascendは、中国における新型コロナウイルスの影響が、この業界の不透明性の主因であると特定しています。中国の航空会社が数千便の国内・国際フライトをキャンセルしているため、この状況はすぐに解消される見込みはありません。

サステナビリティは、航空業界の長期的な主要課題であり続けている

新型コロナウイルスも紛争も、環境に関する課題に取り組む必要性を失わせるものではありません。紛争による即座の影響により、特に北欧―アジア線をはじめとする路線のフライト時間は長くなっており、CO2排出量を著しく増やしています。CiriumのGlobal Aircraft Emissions Monitor(世界機材排出量モニター)から得たデータでは、空域閉鎖により、一部のケースにおいて、2地域間のフライトで2時間以上の所要時間が追加される場合があることが示されています。1フライトあたりの燃料燃焼量に換算すれば、25トンが追加されることになります。

Richard Evans, Ascend by Cirium

しかし、Richardは、たとえ紛争が解決して空域が迅速に再開放されたとしても、サステナビリティの目標を達成することは、航空業界の最大の課題になるとの見方を示しています。「これは長期的にみて、航空業界が気候変動に対処する上で取り組まなければならない大きな問題です。化石燃料の燃焼コストは今後、実質的に高騰していきます」

Richardは、2050年までに「ネットゼロ」を達成するというIATA(国際航空運送協会)加盟社の誓約に対する複数の障壁について詳説しました。つまり、持続可能な航空燃料(SAF)のスケーラビリティ(拡張性)の問題、誰が新技術の対価を支払うのかという問題、そしてフリートの硬直性の問題です。「既存機材をより効率的な機材と置換(リプレース)することは、技術面からみて長い時間がかかります。そして、現行フリートのジェット旅客機をリプレースするためには、巨額の費用がかかります」

Richardは将来を見据えて、次のように結論付けました。「次の拡大サイクルは、航空業界が脱炭素化に深く関与していることを実証するとともに、単に脱炭素化を話題にするだけではなく測定可能な変化に注目し始める機会となるでしょう」


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ロシアのフリート、ロシアのOEMの潜在的役割、Ascendの回復シナリオの最新版の詳細分析を含めたパネリストの議論をすべて見るには、ウェビナーのオンデマンド配信動画をご覧ください。

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