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Hong Kong Airport

Ascend Consultancy, 航空専門家の視点, 顧客の視点

Ascend Consultancyによる今後の展望:アジア市場が再開される中、中国の回復はロックダウンによって遅れる見通し

June 3, 2022

中国およびアジア地域の航空旅行に対するパンデミックの影響を考察するJoanna Lu(アジア担当コンサルタント統括)。

Joanna Lu, Ascend by Cirium

筆者:Joanna Lu、アジア担当コンサルタント統括

この記事を執筆中の4月中旬、私はたまたま上海にいました。中国の金融の中心地であり、国内最大の人口を擁する巨大都市です。その2,600万人近くの市民はロックダウンのさなかにあり、日常生活やビジネスが大きな混乱に陥っていました。これは、中国政府がゼロコロナ政策を維持する決定を下した結果です。航空業界、空港を含めて、上海の各事業セクターが直接的な影響を被っていたのです。


上海発着のフライト数は3月以降、大きく落ち込みました。現地における新型コロナウイルスの感染拡大と、主として国内旅行を対象とした新しい制限によるものです。こうした上海の状況は、中国東方航空が運航するボーイング737-800の墜落事故と、市内の大規模なロックダウンの後に悪化し、4月には事実上、航空機の運航数がゼロになってしまいました(最初のグラフをご参照ください)。国際線の運航状況もよくありません。4月の座席数は、2019年同月と比べて90%超も減少しています。中国当局は国外から上海への到着便について、4月のロードファクター(有償座席利用率)の上限をわずか40%にするよう指示しました。それまでの上限は75%でした。香港と上海を結ぶ路線を運航するキャセイパシフィック航空、香港航空、中国東方航空の3社は、この路線の運航内容を調整し合い、上海到着便の運航頻度を各社3週間に1便とするよう指示されました。この状況が今後どれだけ続くのか、まだはっきりとしません。ロードファクターに対しては、今も50%の上限が設定されたままです。

中国への影響

中国の国内旅行市場は、パンデミック初期に新型コロナウイルスの感染抑制に成功したことにより、急速に回復していました。現在は、関係当局が感染撲滅戦略の下、感染力の極めて高いオミクロン変異株の感染拡大を止めるのに悪戦苦闘しています。中国最大の航空ハブである上海の現況は、中国の回復の見通しに多大な影響を与えています。中国におけるシングルアイル機のフリートは激減しています。現在の機数は、基準となる2019年4月と比べて60%も減っており、パンデミックが始まった2020年初頭と比べても、下落に近い水準です。ツインアイル機の運航状況の回復は、2年前のCAAC(中国民用航空局)の規制により滞ったままです。この規制では、1ヵ国、1航空会社につき各週1便の運航しか許されていません。

フライト時間でみた4月の全商用ジェット機の平均利用率は1日あたり約5時間となり、2019年同月と比べて43%下落しました。運航フライトの総数は、パンデミックが始まって以来最低を記録するまでに下落しました。これは、2019年の同時期と比べて20%の水準でしかありません。3月28日~4月3日の週のフライト数は、 2003年の水準にまで落ち込みました。国内線の座席キャパシティは、2019年4月と比べて75%以上減少しました。

中国の三大航空会社は最近、2021年第4四半期に損失が増大したと報告しました。2021年はコロナ禍による損失を出した2年目の年となり、回復への望みは薄れる一方です。その原因はいくつか考えられます。基本的に、パンデミックの影響が続く今、旅客の旅行意欲はなお比較的低い状態です。渡航制限の影響により、航空各社は国際線サービスのキャパシティを活用するのが難しくなっています。国内線の運航も、先行きの不透明感のためにコストが高くなっています。加えて、燃料の高騰が続いていることで、航空会社のコスト負担が増大しています。同じ理由により、かなりの数のリージョナル航空会社が破産状態に陥ったと伝えられています。中国政府が民間航空セクターを支援するべく、付加価値税の前納の一時停止措置などの対策をいくつか打ち出したとも報告されています。しかし、こうした対策はあまりにも小規模で、本当の支援になるほどの効果はないようです。今年後半には必然的に、航空会社の合併劇が起きる可能性があります。

ロックダウンにより、中国経済が急激に落ち込む兆候がますます明確になっています。ここ2年間で、中国のサービスセクターにおける事業活動は、過去最速のぺ ―スで縮小しました。新型コロナの感染者数が急増したことにより流動性が制限され、需要が低迷したからです。コロナ禍に起因する中国のロックダウンは、サプライチェーンの回復への期待を打ち砕いてしまいました。多くの産業はより力強いサプライチェーンを必要としており、自らの事業戦略に調整を加えつつあります。つまり、輸送量の多い路線への集中度を減らすということです。明確になっているトレンドを一つ挙げると、中国は今後もなお巨大であり続けるにせよ、より小規模な貿易・取引ネットワークは、他の東南アジア諸国に移行していくということです。この傾向は中国発の貨物需要に影響を与えることになりますが、その移行プロセスは相当に漸進的なものになる可能性があります。

アジア太平洋の他地域について

中国の回復は依然として遅れる見通しですが、アジア太平洋の他地域は異なる様相を呈しています。中国以外のアジア太平洋地域で追跡された国内路線の機材数は、これまで2019年の実績の90%強の水準を概ね安定的に維持してきました。国際市場において追跡された機材の利用状況は、わずかに改善しています。

この地域では、飛行機利用状況の回復が加速する兆しがあります。それは、Ciriumの追跡利用データが示唆しています。下の地図を見ると、2022年4月に北東アジア(中国を除く)、東南アジア、そしてオーストラレーシア(オーストラリア大陸とタスマニア・ニュージーランド・ニューギニアおよび周辺の島々の地域)の大部分が急速な回復モードに入ったことが示されています。特に日本とオーストラリアでは、追跡された国内線フライトの便数が、2019年4月から10%しか減っていませんでした。インドと韓国は、もっと顕著な回復ぶりを示しました。国内線フライトの便数が、パンデミック前の水準と比較してそれぞれ3.1%増、1.8%増となり、わずかながら上昇傾向を示したのです。ニュージーランドと台湾は両方とも、国内線フライトの便数について、2019年4月実績の約80%の水準を維持しました。東南アジアのほとんどの国では、国内線フライトの便数が2019年同月の水準と比べて20~50%減となりました。

この地域では、ワクチン接種率の改善に伴い、国境封鎖が再び解かれ始めています。オーストラリアは2月、海外からの旅行客の受入れを開始しました。マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、ベトナムといった他の国々も、渡航制限を段階的に緩和すると発表しています。香港は最近、経済界からの強い要望を受け、インバウンドの渡航および検疫の制限を一部緩和しましたが、現地居住者以外の渡航者に対する入国停止措置は続いています。シンガポールはゼロコロナ政策を廃止し、2021年末以降、追跡された国際線フライトの便数が伸びています。ニュージーランドは5月1日から、ワクチンを完全接種したビザ免除対象国からの渡航者に限って受入れを始めることにしており、2022年10月からは制限を完全に撤廃します。日本では3月1日から、受入れ組織・団体の監督の下、観光以外の目的で来日する外国人の新規入国が認められるようになりました。アジア太平洋地域の渡航制限は、今後も着実に撤廃されていくと見込まれます。

この地域では、各国境が再開されるたびに航空券の予約が急増しており、飛行機利用の繰延需要が顕著に見られます。とはいえ、この地域の飛行機利用の復活は、航空各社が業界パートナーと歩調を合わせられるかということにかかっています。ロシアとウクライナの紛争は、原油価格の高騰を招き、世界経済に打撃を与えています。航空会社が事業を行うためのコストも上昇しています。韓国、シンガポール、タイの空港は、航空会社を支えるためのさまざまな対策を積極的に実施しています。シドニー空港、ブリスベン空港は、航空会社を再び呼び寄せるべく、政府の支援を利用したインセンティブを提供しています。日本では、政府が管理する空港の国内線サービス向け割引措置について、その期限を2023年3月まで延長しました。それでも、中国がなおアジア太平洋地域最大の市場であることに変わりはありません。この市場の動向を注視することは非常に重要です。中国が、同地域全体の回復シナリオに影響を与えることは明らかなのです。

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