筆者:George Koudis PhD, Product Manager at Cirium
飛行中の航空機から出るコントレイルは、「飛行機雲」としてよく知られています。これは、航空機のエンジンから出る高温多湿の空気が、大気中の低気圧・低温の空気と混ざり合ってできる線状の雲のことです。ここ数年、コントレイルは、地球温暖化に大きな影響を与える可能性があるとして、研究者の間で俄然、注目されるようになってきました。本稿は、コントレイルが環境に与える影響に関する重要な疑問に答えることを目的としています。
航空関連業界はなぜ、コントレイルを気にかけるべきなのでしょうか?
気候変動について考える時、私たちの多くはCO2を思い浮かべます。ほとんどの産業にとっては、それは正しいことです。しかし、航空業界にとってはそうではありません。機材運航の大部分は対流圏で直に行われるため、地球温暖化に直接的かつ即座に影響を与える可能性があります。
最新の研究では、CO2以外の影響が、航空業界全体の気候への影響の約3分の2を占めていることが示されています。その影響の中でも、コントレイルとコントレイルに起因する巻雲(けんうん)の寄与度が最も高く、航空活動による温暖化効果全体の約50%を占めています。
わずか2%のフライトが、コントレイルが気候に与える影響全体の80%を占めると推定されています。そのため、運航への比較的少ない回数の介入によって、大きな利益が達成される可能性があるのです。
さらに、コントレイルの気候への全面的な影響は数時間という短い時間で生じるのですが、それに対してCO2の影響は、数十年という長い期間にわたって発生します。将来の炭素回収技術により、CO2排出量削減の必要性を軽減することができるかもしれません。しかし、コントレイルについては、コントレイルが既に発生してしまった後にその影響を軽減させるような技術はありません。
コントレイルが地球温暖化に与える影響について、科学的な証明はされているのでしょうか?
コントレイルは、地球の大気圏から宇宙空間に戻されるはずの太陽からの日射を吸収・捕捉してしまうため、地球温暖化の要因となります。
科学界では、こうしたコントレイルやコントレイルによる巻雲がもたらす地球温暖化の影響が、既に証明されているという点で一致しています。
長時間持続するコントレイルが発生しやすい大気領域を予測する能力にはなお不確実な面があり(短時間で消えるコントレイルの影響は比較的小さい)、その分野での研究が今も続けられています。
コントレイルが温暖化の実質的な影響をもたらすのはいつでしょうか?
調査によると、最も温暖化を進行させるコントレイルが発生するのは、夜明けや夕暮れ時、そして航空機が高度35,000~41,000フィートで巡航している時です。
一方で、日中に発生したコントレイルは、太陽光を地表面に閉じ込めるのではなく、宇宙空間に向けて反射させるため、全体として冷却効果を発揮する可能性があります。
新型の商用ジェット機は、旧型機よりも高高度を巡航する傾向があります。これはコントレイルの形成にとって良い条件なのでしょうか、悪い条件なのでしょうか?
新型機がより高い高度で巡航するということが、高度35,000フィートから41,000フィートの範囲内で運航されることを意味するのであれば、コントレイル形成の可能性は潜在的に高くなります。
しかし、コントレイルは常に比較的狭い高度帯で発生し、その位置が非常に動的であることに注意すべきです。したがって、航空機の巡航高度を、特定の飛行がコントレイルを発生させやすいか否かの主要因とすることは正当ではないでしょう。その発生は、特に当日の気象予報によって左右されます。
コントレイルの形成には、エンジンの種類による差異はあるのでしょうか?
エンジンの種類によって、コントレイルのできやすさには違いが出ます。
コントレイルの形成(または不形成)は、エンジン燃焼の「クリーン」度合と大きな相関関係があります。エンジンは、エンジン本体や大気からの水蒸気が凝結するための核として機能するすす粒子(粒子状物質)を排出します。一般的に、すす粒子が多いと水蒸気が凝結する面が多くなり、雲が発生しやすくなります。
現在、持続可能な航空燃料(SAF)や水素の利用にまつわる興味深い研究が進められています。SAFも水素も「よりクリーン」に燃焼する燃料ではあるものの、より多くの水蒸気を発生させる可能性があります。どちらの燃料についても、コントレイルの発生を減少させるという全般的なコンセンサスは得られていますが、研究は今も続けられている最中です。
イギリスでは、環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が、航空輸送において排出されるすべてのCO2に1.9を乗じて、地球温暖化への総体的な影響度を表すことを推奨しています。これは、最新の研究に基づいた現実的な数字なのでしょうか?
個々のフライトについては、平均値を用いたところで、地球温暖化への影響度を示す正確な数値は得られません。1回のフライトがコントレイルを通して気候に与え得る影響には、非常に大きな幅があるからです。この幅広い影響は、前述したような正味の冷却効果から、その同じフライトにおける数十倍のCO2排出量に相当する温暖化効果にまで至ります(全フライトの2%が、航空機のコントレイルによる温暖化の80%をもたらすことを思い出してください)。
それでも、コントレイルの全体的な気候への影響度は、CO2の排出のみの影響度とほぼ同じになります。そのため、コントレイルを長期にわたって考慮する必要がある場合には(例えば、ある航空会社の1年間の気候への影響)、1.9倍という係数がふさわしいのかもしれません。
航空分析は、温暖化を進行させるコントレイルの発生を回避するためにどう役立つのでしょうか?
コントレイルによる地球温暖化の影響を軽減するためには、データ主導の航空分析が不可欠です。
第一に、航空業界全体の利害関係者が気候への影響の全体像を正確に数値化し、改善すべき分野を特定できるようにするためには、運航のベンチマーキング(基準設定)に向けた分析が必要です。第二に、航空業界の利害関係者が、コントレイルが発生しやすい地域を予測し、その地域の回避に向けた十分な情報を得た上で、運航上の決定を下せるようにするための分析が必要です。
コントレイルの形成は、離陸前にコントレイルが形成されやすい地域を通り抜けるようなフライト計画を事前調整することにより、計画段階で軽減させることが可能です。これまでに実施されたほとんどの運航試験では、コントレイル回避策としてこの方法が用いられています。
あるいは、航空管制(ATC)や操縦室にいるパイロットへのデータ提供を通して、より最新の予測やまさに現在の状況に基づいて飛行ルートを戦術的に(つまり飛行中に)変更することもできます。
どちらの方法においても、気象・コントレイルの予報士、航空会社、フライトプランナー、ATCなど、さまざまな関係者・関係組織の力を結集する必要があります。飛行ルートを変更する場合には、トレードオフ(妥協点)についても考慮することになります。例えば、航空管制サービスプロバイダーの料金、追加燃料(研究によれば、コントレイルは、燃料にごくわずかな影響を与える程度で回避できるのですが)、ATCの制約、目的地までの時間などです。
課題はあるにせよ、コントレイルの回避を通じて、航空関連業界が気候に与える影響を軽減する大きな機会が存在しています。そして、それは脱炭素化よりもはるかに容易、迅速に達成される可能性があるのです。
Ciriumは、航空機のCO2排出量に関する最も正確なデータを市場にお届けすることを通して、世界の航空業界による持続可能な未来の実現を後押ししています。その全容はこちらからご覧いただけます。