筆者:Sara Dhariwal, Senior Aviation Analyst, at Cirium Ascend Consultancy
オフショア石油・ガス市場は、劇的な景況悪化から約8年を経て、その風向きが今ようやく、恐らくは同じように劇的な形で好転し始めました。
このような活動の活発化に拍車をかけている大きな要因は、ロシアとウクライナの紛争です。世界各国が、自国のエネルギー供給体制を守ることに躍起になっているためです。この業界にとって追い風となったのは、直近では英国のリシ・スナク首相が今年7月末、北海において「少なくとも100件」の石油・ガスライセンスを認可すると発表したことです。
既存の機材フリートの供給がますます逼迫する中、こうした潜在的なライセンス契約によってもたらされる需要に対応するために、より一層のキャパシティが必要になる可能性が高まっています。イギリス政府は、北海の認可ブロックの正確な位置については明らかにしていませんが、どのようなタイプのヘリコプターが必要になるのかが注目されるところです。
北海は依然としてヘビー(大型)ヘリコプターのシェアが最も高い地域であり、シコルスキーS-92Aの全稼働フリートの約35%は、英国とノルウェーで運航されています。
この高い比率は、北海海域で見られる深海油田リグの基数に起因しています。最も沖合にある石油掘削装置(オイルリグ)まで燃料補給をせず往復するには、大型ヘリコプターが有する航続距離とペイロード(有償搭載量)が必要になるのです。
しかし、新たなキャパシティが必要になる中でも、大型ヘリコプターの選択肢は、前回の好況時とは変わってきています。2014年には、15~16人乗りの「スーパーミディアム」という新しい機体サイズのカテゴリーが市場に参入しました。これには、エアバス・ヘリコプターズH175とレオナルドAW189が含まれます。スーパーミディアムは、OEM(航空機製造会社)が、ヘビー機(大型機)を必要としないリグへの輸送オプションとして、取得コストと運航コストの両面でより経済的な提案をするべく、ヘリコプター市場内のギャップ(隙間)を見出して開発したカテゴリーです。
Type | Range | Seating capacity | Current fleet | Average value* |
---|---|---|---|---|
S-92A | 540nm (~1000km) | Up to 18 passengers | 200 | US$18.1m |
AW189 | ~340nm (630km) | Up to 16 passengers | 46 | US$14.7m |
H175 | ~280nm (520km) | Up to 16 passengers | 37 | US$14.2m |
S-92Aのオフショア市場への最後の納入は、2019年でした。Cirium Fleets Analyzerによると、S-92Aの現行フリートのほぼ90%は、機齢が10年から20年の間になっています。最近、OEMがS-92Aのアップグレード版のバリアント(変異機種)であるS-92Bの生産計画を撤回すると発表したため、今後この機種の新規納入が大幅に増えることはないとみられます。これは、フリートが今後スーパーミディアム機に置き換わることを意味するのでしょうか?
このデータを見ると、実際にスーパーミディアム機がヘビー機カテゴリーを侵食しながら、市場シェアを少しずつ奪う兆候があるように思われます。
成長曲線を比較してみると、スーパーミディアムの総フリートは、現在のS-92のフリートに匹敵するほどに規模を増加させる方向にあるようです。この2つのタイプの成長ぶりを個別に追跡した場合には、シナリオは大きく異なってきます。
こうした分析については、疑問の余地があります。果たして市場は、スーパーミディアムやそれより大型のヘリコプターが2機種以上、存在できるほどに十分な規模があるのでしょうか?その規模がないとした場合、どのヘリコプターが、最大のシェアを占めることになるのでしょうか?
さらにもう一つ、競争のリングに上がるのを待っている機種もあります。それは「ベル525リレントレス」です。この機種は2012年に発売され、間もなく納入が開始される予定になっています。
OEMの技術情報によると、この機種の乗客定員は16人であり、航続距離は480nm(約1,000km)となっています。言い換えれば、ヘビー機の航続距離を有するスーパーミディアム機ということになります。 これまでのところ、この機種の受注残の状況についてはほとんど知られていません。最初のローンチ(生産計画立ち上げ)から10年以上を経て、ようやく納入されつつあるこの機種が、より定評のある競合機種を相手に成功を収める可能性はあるのでしょうか?
過去10年間のオフショア市場から学んだことが一つあるとすれば、それは「常に予想外の事態を想定しておく必要がある」ということです。
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