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航空専門家の視点, 航空機業界の動向予測

旅客機での貨物輸送:トレンドは継続

October 11, 2021

Ciriumは2020年、旅客機の一時的な貨物転用という、新たなトレンドを示す分析結果を発表しました。今回の最新版「データ・インサイト」では、前回調査を行った航空機のその後を調べた結果、このトレンドが続いていることが確認されました。さらに、貨物転用された旅客機が増えたことも明らかになりました。

Ciriumは2020年、旅客機の一時的な貨物転用という、新たなトレンドを示す分析結果を発表しました。今回の最新版「データ・インサイト」では、前回調査を行った航空機のその後を調べた結果、このトレンドが続いていることが確認されました。さらに、貨物転用された旅客機が増えたことも明らかになりました。

新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした状況の変化で航空貨物に対するニーズが高まる一方、ほとんどの業界がそうであったように、航空貨物業界でも混乱が見られました。旅客便の大量キャンセルが相次ぎ、スケジュールが変更され、乗務員の隔離による不安が広がりました。

このような事業環境のなかで航空貨物輸送へのニーズが高まった結果、航空会社のなかには保有機材の貨物輸送能力を最大限引き上げることに成功した企業もあります。この「データ・インサイト」では、座席を撤去することで、客室内に輸送貨物用のスペースを設けた航空機の、小規模なグローバルフリートに注目しています。

Ciriumの旅客体験調査チームはこれまでに、客室を用いて貨物を輸送するために、全席あるいは大半の座席を取り外した旅客機200機を特定しました。ただし、「データ・インサイト」では、客席を残したままその上に貨物を載せて輸送する旅客機や航空便、あるいは貨物が貨物室のみに搭載される貨物専用便として運航される航空機は一切含んでいません

思い切った解決策 - トレンド初期

アジアで製造されたマスクや手袋などの個人用の防護具(PPE)への需要が高まり、これらこのPPEを世界各地へ速やかに輸送することが必要になりました。しかしそれと同時に、旅客機の運航規模が急激に縮小され、輸送できる貨物の積載量が急激に落ち込みました。

Ciriumの航空データ調査員Bin Heは、次のように指摘しています。「コロナ禍当初は、中国系航空会社が国内向けの必要物資を旅客機に搭載して輸送していました。防護具PPEの箱は貨物室に積み込まれるだけではなく、客室の座席にも置かれるようになりました。しかしコロナ禍が深刻化し、防護具PPEに対する世界的需要が急速に高まったことで、航空各社はより思い切った解決策が必要になりました。」

A330型機は貨物転用に人気のある大型旅客機で、Ciriumの調査対象である貨物転用フリート全体の31.5%を占めます。
中国東方航空では、客室内に貨物を搭載するためにエアバスA330型機19機から座席を撤去しました。

旅客機の貨物転用 - 造語「プレイター(Preighter)」誕生

中国系航空会社10社が保有する47機の旅客機で、座席全席あるいは大半が撤去されました。これは、Ciriumの調査対象である貨物転用フリート全体の23.5%を占めます。これらの旅客機の半数以上がエアバスA330型機で、うち19機を中国東方航空が運航しています。「中国東方航空では、当初座席に貨物を置いて運航していましたが、3月までには完全に座席を取り払い、各機材の貨物積載能力を最大限に引き上げるようになりました」とBin Heは解説します。A330型機は貨物転用に人気のある大型旅客機で、Ciriumの調査対象である貨物転用フリート全体の31.5%を占めます。

貨物便に転用された旅客機のうち81.5%が、エアバスとボーイングのツインアイル(複通路)ジェット

また、それらのA330型機のうち10機はルフトハンザ航空所有で、同グループの最高経営責任者Carsten Spohr氏は、「プレイター(Preighter)」という、旅客機(Passenger)と貨物機(Freighter)の造語の生みの親とされています。ルフトハンザグループのルフトハンザテクニックは、旅客機の貨物転用許可をドイツの規制当局から取得した後、座席とIFE(機内エンターテインメント)の配線を取り外し、防火対策を施しました。そうすることで、医療用品をアジアからフランクフルトにあるルフトハンザの拠点までA330-300型各機で輸送することが可能になりました。Ciriumのフライト追跡データによると、3月後半から5月後半にかけて、それらの旅客機はそれぞれが平均50本の運航を行った後、一時転用サービスを終了し、座席を再度取り付けて旅客サービスを再び提供できるようにしたことが示されています。

Ciriumの調査対象である貨物転用フリートの大多数が大型機であり、エアバスとボーイングのツインアイル(複通路)ジェットが全体の81.5%を占めます。また、63機のA330型機以外にも、航空各社17社で58機のボーイング777型機が転用されましたが、これには世界最大規模の777型機フリートを運航する航空会社も含まれています。

エミレーツ航空は当初、777型貨物機11機による強力なフリートを補うため、10機の777-300ER型機を「ミニ貨物機」として運航できるよう調整しました。

今では最大18機が貨物転用機として稼働しています。360席、3クラス仕様の各機材で、エコノミークラスの305席を撤去することで、客室に最大132立方メートル(17トン)分の貨物スペースを生み出しました。これに加えて、貨物室の積載能力が40~50トンあります。

エミレーツ航空の国際貨物運航担当シニアバイスプレジデントであるHenrik Ambak氏は、「エミレーツ航空は、1フライトあたりおよそ60~70トンの貨物積載量を持たせたボーイング777-300ER型転用機で運航を行っていました」と説明します。それらの転用機での初フライトは、2020年6月中旬にドバイ発の貨物サービスから開始されました。最近では、それらの777型機のうち2機をリース会社に返還し、別の8機を貨物専用としました。

その頃までには、航空便を使った個人用防護具PPEの緊急配送への需要は和らぎました。それと同時にサプライチェーンが落ち着きを取り戻し、荷主側も陸上輸送や海上輸送など、比較的時間的な制約が少なく、コスト効率の良い輸送手段へと切り替えるようになりました。しかし、旅客機の運航規模が大幅に縮小されたことで、貨物室の積載能力が低下し、従来の消費財の輸送能力に影響が生じていました。そこで、エミレーツ航空をはじめとする航空各社は、「ミニ貨物機」の導入をもって、積載能力の不足分を補うことにしたのです。

「マスクや手袋といった防護具PPEはより頻繁に輸送される傾向にありますが、エミレーツ航空は、衣服や繊維製品、新鮮な切り花や青果、医薬品や製造部品といったものも搭載してきました。」Ambak氏は次のように付け加えています。

同時運航されていた貨物転用機の数が2020年6月にピークに達した後、その総数の変動はわずかにとどまっています。これは、機材に座席を再度取り付けて旅客サービスを再開した航空会社がある一方、逆に貨物転用サービスを同年後半に開始した航空会社があるためです。

これまでのところ、貨物転用フリートの37.5%に相当する75機が貨物輸送の仕事を終えました。その大半が再び旅客サービスに戻っていますが、そうでない機材もあります。貨物転用フリートの14.5%に当たる29機は、貨物輸送の仕事を終えた後に遊休機材となりました。機材の転用ペースは減速しましたが、完全に止まったわけではありません。例えば2020年第2四半期には116機で座席が撤去されたのに対し、続く第3・第4四半期の転用機の数は両四半期を合わせてわずか32機でした。Ciriumの最新調査によると、2021年現在、さらに25機が貨物便に転用されたことが分かっています。

貨物を客室に積み込むには、コンテナやパレットで機体内部の貨物室に搭載する場合と比べて、多くの人手が必要になります。

転用機の数が増えたことが、旅客数が落ちこむなかでの頼りになる収入源となっているように思われますが、旅客数が戻るにつれて今後どれだけの転用機が残るのかははっきりしません。運賃が安く、出張目的の航空機利用が引き続き制限されている限り、貨物便への転用によって旅客収入の減収分を補填しようとする動きが今後も続く可能性は高いといえます。旅客機の貨物転用を長期的に続けるには、転用作業と貨物搭載方法の一段の効率化が求められてきます。

旅客機の貨物転用の未来

Ascend by Ciriumの市場分析部門の代表であるChris Seymourは、次のような見解を示しています。「コロナ禍初期には、貨物を速やかに輸送するという差し迫ったニーズがありました。しかし状況が落ち着いた今、航空各社の課題はいかに貨物を効率良く輸送するかということに移っています。コンテナやパレットで機体内部の貨物室に搭載する場合と比べて、客室に貨物を積み込む際には多くの人手が必要になります。航空会社にとっての問題は、資金を投じて客室を(貨物用に)再編成するのか、あるいはそのままの形で旅客機内部に貨物を搭載し、必要であれば客室の座席の上に固定する形で荷物を載せて運航するのかということです。」

エミレーツ航空は差し当たって次のように述べています。「エミレーツ航空のネットワーク全体で旅客機の貨物転用を今後も続けます。世界の貨物需要が状況に応じて急速に変化し続けていることから、何らかの中長期的な予測を立てることは難しい状況です。」

航空貨物業界は短期的に、新型コロナワクチンの世界各地への供給が始まるなかで、IATAの最高経営責任者Alexandre de Juniac氏が言うところの「史上最大規模の緊急空輸」のミッションに直面しています。もっとも、ワクチンが客室に積み込まれる可能性は低いと思われます。ワクチンの輸送は複雑で、特に冷凍保管を必要とするワクチンについては、機体内部の貨物室に搭載されることになるためです。

とはいえ、航空各社が旅客サービスの運航ルートと本数を元の状態に戻せるようになり、それによって国際航空貨物の積載能力が引き上げられるまでは、おそらく貨物転用フリートが国際物流において重要な役割を果たしていくことになるでしょう。少なくとも当面の間はそうなるといえます。

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