筆者:Herman Tse, Valuations manager at Ascend by Cirium
航空業界は今、新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱と不確実性から立ち直ろうとしています。航空各社は2022年度、その回復力と適応力を実証しました。人員削減、機材の最適化、業務のデジタル化を含めた厳しいコスト削減策を実行し、営業費用の大幅な削減を実現したのです。
こうした対策によって、航空会社はパンデミック下の困難な状況にもかかわらず、業務を維持することができました。コロナ関連の厳しい措置が解除されたことにより、旅客需要の力強い復活と、産業の回復の機会が生まれました。昨年度、多くの航空会社の業績は前年度に比べ改善し、過去最高の営業利益を達成した会社もいくつかありました。
アメリカの航空会社はコロナ規制の早期緩和の追い風を受けており、特に国内旅行需要が業績回復を牽引しています。輸送目的地となる多くの市場が再開されたことで、国際線フライトからの収益はさらに増加しました。アメリカでは国内の旅客需要は堅調であるものの、一方でLCCは厳しい競争にさらされ続けています。2022年第1四半期に流行した新型コロナウイルスのオミクロン変異株や、第4四半期の天候不順は、航空会社の実績に悪影響を及ぼし、通期での業績を悪化させました。
ヨーロッパの航空会社も2022年には業績が改善し、ほとんどの主要航空会社が、年間を通じた大幅なフライトの需要増に後押しされ、営業利益を大きく伸ばしました。
旺盛な需要とキャパシティの制約により、ほとんどの路線の平均航空運賃が、同年下半期を中心に著しく上昇し、航空各社の収益にプラスの影響を与えました。 数多くの航空会社が、2022年に収益を顕著に改善させました。なかでも筆頭株のルフトハンザドイツ航空は、ほぼ倍増の328億ユーロを計上しています。しかし、とりわけ2022年夏には、パイロットやグランドハンドリングサポートなどのリソースを確保できず、キャパシティが不足したことにより、フライト数の拡大が阻害されました。
アジア各国の渡航制限の解除は遅くなりました。日本や韓国など一部の国は2022年末にようやく国境を再開し、中国と香港は2023年初頭になって入国者の隔離要件を撤廃しました。その結果、2022年には低迷していた旅行需要が、こうした国境再開後に改善の兆しが見えてきました。アジアの航空会社の中には、大韓航空やキャセイパシフィック航空のように、貨物事業を拡大することで収入源を多様化し、収益を伸ばすとともに、旅客数の変動による影響を緩和することに成功した会社もあります。とはいえ、ベリー(機材の下部貨物室)のキャパシティを有する旅客便が再び増えたことにより、航空貨物のイールド(収入単価)は、パンデミック前の水準よりは高いものの、低下傾向にあります。
2022年の世界の航空会社の業績をみると、前例のない困難に直面した航空業界の回復力と適応力を実感します。
パンデミックに関連する各種規制の撤廃や収益の戦略的な多様化により、航空業界は、パンデミック後の世界でなんとか回復にこぎつけただけではなく、繁栄に向かうこともできました。世界の航空業界は、潜在的な逆風はあるものの、回復基調にあることは明らかです。現在の世界の不確実な経済情勢においては、高いインフレ率と金利が、消費者の旅行需要に影響を及ぼす可能性があります。近年不安定になっている燃料価格は、今後も政治・経済の不確実性に左右されて変動すると予想されます。それでもなお、航空業界は、絶えず変化する市場環境に適応しながら再構築を続けており、2023年も自ら有望な年にしようとしています。
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