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Ascend Consultancyによる今後の展望:ビジネス航空のフライト活動は移行期にあるが、チャーター部門よりもフラクショナル部門に恩恵の兆し?

May 15, 2023

ビジネス航空は、ここ2年間の目覚ましいフライト数の増加を経て、活動状況が一部後退しつつあります。

筆者:Daniel Hall, Senior valuation consultant at Ascend by Cirium

ビジネス航空のフライト活動がここ2年間で目覚ましい伸びを示したことについては、これまでにも数多く語られてきました。例えば、2021年10月の米国ビジネスジェット機の出発回数は、2019年同月と比べて20%以上増加し約26万回となりました。しかし、現在はこのような動きは一部後退しています。多くの人は、この増加分が今後どの程度定着するのか疑問に思うことでしょう。その後退ぶりは、2022年第4四半期以降の状況をみても明らかです。アメリカでのビジネスジェット機の出発回数が、前年同月比ベースで平均6%近く減少しているのです。米連邦航空局(FAA)の公開データによると、直近の数ヵ月間、ビジネスジェット機の出発回数は前年比約9%減で推移していますが、2019年と比較すると、減少傾向とはいえ約9~11%の増加となっています。下のグラフはそれを可視化したもので、各月の前年同月比の数値を表しています。

また、航空機1機あたりのフライト活動を調査することもできます(一般的に機材数が増加すればフライト総数も増加するため、この指標は必ずしも大きな意味を持つものではありません)。ここ数年は、1機あたりの月間出発回数が長期平均の14回から18回に増加するなど、大きな伸びを示してきました。この数字は、2000年代後半の20回以上と比べればまだやや低いのですが、現在は長期的な平均値まで再び下がってきています。これは注目すべき重要な傾向ではありますが、より明るい材料としては、チャーター機とフラクショナル・オーナーシップ機(複数所有者による共有機材)の運航会社タイプのカテゴリーが、引き続き成長していることが挙げられます。これらの部門では、全世界で計11,000機のビジネスジェット機とビジネスターボプロップ機が運航されており、航空機の総数に占めるシェアは両部門合わせて約28%に及びます。

下のグラフからは、特にフラクショナル機のフリートを中心とした顕著な成長ぶりが見て取れます。

両部門ともOEMからの新規の直接納入によって成長しているのですが、民間または法人の運航会社(オペレーター)から機材を調達するケースも増えています。これは注目に値します。なぜなら、チャーターやフラクショナルのオペレーターは通常、個人運航機材の概ね4~5倍の規模で機材を使用(運航サイクルあたりの時間数を単位として測定)しているからです。

したがって、フリート規模だけを見ていると、フリートの生産性の側面が隠れてしまい、乗務員、燃料、メンテナンス、FBO(運航支援事業者)の対応能力をはじめとする労働力やサプライチェーンへの高度な要求について、十分に考慮することができません。

オペレーターは細分化されていますが、上位4グループが1,600機以上を管理しています。これらのフリートの規模は、大手のメインラインの民間航空会社のそれと大きく異なるものではありません。

私たちの理解では、フライト活動の減退は、部分的にはチャーター需要の減少によってもたらされたものです。そこには、以下のようなさまざまな要因が絡んでいます。

  • 新型コロナウイルスに起因するロックダウン後の最初の「リベンジ旅行」需要により、必然的にチャーター部門が恩恵を受けていた。
  • マクロ経済への大きな懸念があり、一部の需要が減少している。
  • 各種の代替品目の供給が回復し、航空会社による定期便の運航が完全に再開された。
  • チャーター料の値上げにより、最低価格を求める顧客の一部がいなくなった。

このような要因を踏まえると、次のような疑問がわいてきます。つまり、「継続的な成長を必要としていた運航会社の一部のビジネスモデルは、これから厳しい状況に置かれるのではないか」ということです。

一方で、フラクショナル・オーナーシップにより運航される稼働フリートは、引き続きフライト活動からの利益を上げ続けているようです。フラクショナルは当初、既存の顧客にサービスを提供するための十分な機材を持たず、顧客の発注を断らなければならなかった運航会社のカテゴリーでした。現在、機材の納入ペースは急加速してきています。フラクショナル部門の最大のグループであるNetJetsFlexjetは、(民間航空会社からパイロットを引き抜くなど)成長に向け全力を注いでいるようです。フラクショナル式フライトは、事業に対してより献身的な手法であり、かつチャーター便から論理的に発展した形式でもあるため、その継続的な成長は心強く、恐らく今後も続く見通しです。

私たちは今後も、その動きを注視していきます。ビジネス航空業界は新規顧客の維持に自信を持っていますが、一方でチャーター部門の活動がさらに減退すると、オペレーターの事業に困難が生じ、結果的に機材の売却活動が行われる可能性があります。その場合の売却価格は、現在まで上昇してきた鑑定価値より低くなっていくと予想されます。


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