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Aircraft markets

Ascend Consultancy, 航空専門家の視点

Ascend Consultancyによる今後の展望:インフレは商用機材の価値上昇を促すか?

July 14, 2022

航空機の価格は、米ドルのインフレに伴って上昇するのでしょうか?

Thomas Kaplan, Ascend by Cirium

筆者:Thomas Kaplan, Valuations consultant, ISTAT Senior Appraiser at Ascend by Cirium

アメリカは、消費者物価指数(CPI)に基づく5月の年間インフレ率が8.6%だったと報告しました。これは、過去1年間にわたり、アメリカ国内のさまざまな商品やサービスの価格が平均8.6%上昇したことを意味します。すべての商品やサービスの価格が同じように変動しているわけではないものの、私たちが最も懸念しているのは、周知のとおり価格が米ドルで算定され、世界を飛び回っている資産、つまり商用機材の価値にインフレがどのような影響を与えるのかということです。機材の価格(およびアソシエーションバリュー=連想価値による価格)は、米ドルのインフレと同様の軌道で上昇するのでしょうか?

インフレは最近、世界の多くの主要市場で加速しています。例えば、ヨーロッパは、アメリカと同様のインフレに見舞われており、インフレ率は8%に達しました。では、世界全体で物価が上昇しているのであれば、航空機の価格もその傾向に合わせて上昇するのでしょうか?もちろん、そう単純ではありません。為替レートという別の重要な要素があるからです。世界の現地通貨に基づく物価が上がってきた一方、同じ期間にほぼすべての主要通貨の対米ドルレートが下落しました。これにより、米ドル建ての資産は、現地通貨に換算すると相対的にさらに高くなりました。

下のグラフは、多くの主要国際市場では、米ドル換算の価格が実際には下落したことを示しています。 例えば、ヨーロッパのインフレ率は8%となりましたが、ユーロの対米ドルレートはここ1年間で12%下落しました。ヨーロッパでは現在、ユーロでの8%高い価格に慣れてしまっていますが、その価格上昇分を米ドルに換算すると、実際には米ドル価格では5%低下していることになります。費用と収益の大部分がユーロ建てとなっているヨーロッパの航空会社は、8.6%の物価上昇分を米ドル建ての価格で支払いたくないことは明らかです。仮にそれを米ドル建てで支払うと、ユーロ換算の価格では21%近く上昇することになってしまいます。

Aircraft values chart - July 2022

別の興味深い例がサウジアラビアです。この国の通貨の為替レートは、ペッグ制で米ドルの一定レートに固定されているのですが、インフレ率はわずか2.2%なのです。すべての市場のすべての価格が一斉に変動すれば、サウジアラビアのインフレ率はアメリカのそれと一致することになります。これは、グローバルな経済の状況において、一国のCPI指標に過度に重きを置くことの弊害を示しています。

とはいえ、CPIは、時に機材価値と直接的な因果関係を持ちます。それは新造機材の納入価格の場合です。商用機材の契約には通常、材料費や人件費などのインフレ関連指標に連動したエスカレーション条項が含まれています。通常、年間価格上昇率の上限は約3%ですが、多くの契約にはハイパーインフレ条項という項目も含まれており、インフレ率が一定水準を超えると、その上限が無効になる可能性があります。納入された新造機材の一部には、既にこの条項の影響を受けている例もあると聞いています。結果として、新規供給機材の価格が上昇するにつれ、新造機材の価格も上昇圧力にさらされることになります。A320ceoや737NGのような生産を中止した機種や、現行生産機種の中古機材の価値に対し、新たな価値上昇分が「トリクルダウン」(波及)するかどうかはまだわかりません。

Ascendの市場価値は、市場における取引関連の活動から観察された経験的証拠に基づいています。ここ数ヵ月間、一部の機種の市場価値が上昇していますが、これは米ドル相場の高騰というよりも、航空セクターの回復によるものです。機材取引の二次市場では、まだしばらくは需給力が価値変化の主要な原動力であり続けると予想されます。

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