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Ascend Consultancyによる今後の展望:COMACはエアバス、ボーイングの2社独占に本当に挑戦できるのか?


市場機会の見通し

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Rob Morris, Ascend by Cirium

筆者:Rob Morris, Global head of consultancy, Cirium Ascend Consultancy

今年1月に発生した737-9 Maxの不幸な事故により、ボーイング737の生産体制が引き続き苦境に陥っています。このため私たちは、シングルアイル機の供給がボーイングの納入遅延により不安視されるなか、中国商用飛機(COMAC)が生産を拡充してその需要を満たしていく可能性について何度も質問されてきました。エアバスもA320ファミリーの生産拡大に悪戦苦闘していることを考えれば、この疑問はさらに大きくなります。A320ファミリーの生産は、2019年には月平均で60機に近づいたものの、新型コロナウイルスのパンデミック期には40機未満に逆戻りしました。その後、現在は50機程度となり、2026年の計画目標である75機に向かおうとしているところです。5月初旬に香港で開催された航空機に関するイベント「ISTAT Asia」で、あるリース会社の幹部は「ボーイングとエアバスはCOMACにチャンスを与えた」と述べました。また、別の関係者は航空機メーカーの頭文字を使って「今日の“AB”は、10年後には“ABC”になる」と指摘しました。つまり、COMACに対してドアは開いているのですが、それをくぐり抜けていくことができるのかどうかが問題なのです。

需要の観点から見れば、ビジネスチャンスは確かに存在します。

2023年11月に公表された最新のCirium Fleet Forecastでは、今後20年間で計40,000機以上のシングルアイルおよびツインアイルの旅客ジェット機の納入需要が発生すると予測しています。

エアバスとボーイングは2000年から2019年までの20年間に、計19,600機弱の商用旅客機を納入しました(納入機数には、ボーイングが1997年に買収したマクドネル・ダグラス社のレガシー航空機5機が含まれます。この買収により、2000年は、商用大型機市場が現在のような2社独占状態を築いた年となりました)。したがって、今の2強企業が2043年までに生産量を倍増させない限り、第3の企業の参入余地が確実に出てくるのです。

それにしても、33,000機近くもの納入需要が予測されているコモディティのシングルアイル機分野において、COMACは現行機種のC919の生産拡大を果たし、そのチャンスを生かすことができるのでしょうか?受注状況には明るさが見えており、Ciriumの機材データベースには現在、既に引き渡された5機に加え、さらに998機が確定発注されていると記録されています。しかしながら、下のグラフが示す通り、この受注残は2040年いっぱいまでの納入が予定されており、競合するエアバスやボーイングのシングルアイル機よりもはるかに長い納入期間となっています。現在、受注残の46%のみが航空会社6社から発注コミットメント(発注の誓約)を得ており、全社の本拠地が中国となっています。残りの543機は12社のリース会社から発注されています。その発注元は、BOC Aviationを除いて本拠地が中国国内にある中国資本の会社です。これらの機材については、引き渡し先の顧客を見つける必要があります。新しい航空機プログラムがこれほど早い段階で、しかも数多くのリース会社から引き合いに出されるのは異例なことです。これはおそらく、航空各社がC919について、今のところどのように評価しているのかを示唆しています。ただし、最近の中国国際航空と中国南方航空からの100機ずつの発注は、多くのリース会社の発注よりもはるかに確固とした内容になっているようです。

CiriumのFleet Forecastも楽観的な見方を示しており、2042年までのC919プログラムの機材納入数は現在1,700機弱と予測されています。これらの納入機の大半は国内顧客向けです。輸出顧客向けに販売されるのは、概ね政治的影響力によって販売キャンペーンを推進できる中国の「一帯一路」関連諸国向けの約250機にとどまると予想されます。今回の予測期間中、中国では6,000機以上のシングルアイル機の新規納入が見込まれており、C919の市場シェアはボーイングの30%、エアバスの45%に対し、約25%を獲得するとみられています。

そのような楽観的な見方がある中で、シングルアイル機市場に参入しようと努力しているCOMACの現在の実績はどうなっているのでしょうか。また、その実績は、最も新しく市場に参入して成功した企業と比較してどうなのでしょうか。ここで言う企業とはもちろん、1980年代後半に市場に参入したエアバスのことです。エアバスは1988年3月、エールフランスに最初のA320を納入しました。COMACは2022年12月、中国東方航空にC919の初号機を引き渡しました。それから17ヵ月後の今、COMACは、その同じ単一の顧客に5機を納入したばかりです。エアバスは1988年のA320の初号機納入から17ヵ月間のうちに、ヨーロッパ、北米、アジアの9つの異なる航空会社に計49機を納入しました。35年以上前、とりわけ市場が現在よりもはるかに小さかった時代に、エアバスはその10倍の数の新型機を世界に向けて送り出しているのです。エアバスは当時、今のCOMACにはない重要な優位性を有していました。それは1960年代以降、フランスとイギリスにあるエアバスのパートナー企業が、シングルアイル旅客機であるカラベル、トライデント、ワン・イレブンを計630機以上製造し、世界の90弱の顧客に納入していたことです。このころのエアバスは、競合していたボーイングとマクドネル・ダグラスのシングルアイル機に対し、A320ファミリーを信用度の高い世界的な競合機として確立するのに必要な定時出発の信頼性と性能を顧客に提供するべく、独自の航空機サポートネットワークを活用できたのです。COMACはそのようなサポートネットワークを持たないため、これから顧客の航空会社向けのサポート体制を懸命に構築しなければなりません。航空各社は、定評あるエアバスやボーイングの機材を凌駕するような、性能と定時出発の信頼性をCOMAC機に期待するからです。

既に納入された航空機の現在の実績は、どうなっているでしょうか?Ciriumのデータによると、中国東方航空の5機は今、上海虹橋から成都、北京、西安行きの国内3路線の定期便に使用されています。

フライトト追跡データによると、同機は4月に計398便、1日平均では5.9時間、運航されたことが確認されています。

この同じ月、中国で稼働しているボーイング737-8 MaxとA320neoの1日あたりの平均飛行時間は、それぞれ8.1時間と8.4時間でした。つまりC919は、今のところ明らかに抑制されたスケジュールで運航されています。運航サービス面での機材の能力を証明し始める段階に入る中、その稼働水準は、平均するとボーイングおよびエアバスの競合機の70%程度となっています。しかしながら、今年2月の時点では、C919は、737とA320の1日あたりの平均稼働時間の50%程度しか達成していなかったため、改善の兆しが既に見えていると言えます。また、路線の点でも改善の兆しがあります。報道によると、C919は2024年6月1日に、上海虹橋―香港線の単発の復路便で運航される予定です。この後、同路線がC919を使った定期便になるとの続報もありました。

将来についてはどうでしょうか?既に触れた通り、Ciriumの受注残データでは、COMACが2031年に130機以上の機材を顧客に納入するとの見通しが示されています。COMAC自体、今後5年以内に年間の生産能力を最大150機に増強する意向を示しています。また、COMACは、A320にその小型、大型のバリアント(異形機種)であるA319とA321を追加したエアバスの戦略にやや似た形の航空機ファミリーを開発しているところです。現行のC919より胴体が短いバリアントである「プラトー(plateau)」バージョンについては、チベット航空がローンチカスタマーとして発注し、その製造・開発が今年2月に立ち上がっています。2029年までに年間150機の航空機を製造できるようにするという構想は、表面上は野心的に見えます。1998年に納入された168機のA320ファミリーは、同年にボーイングが324機、マクドネル・ダグラス(そのころにはボーイングが100%所有)も42機を納入した当時のシングルアイル機市場で30%以上のシェアを占めていました。それでも、エアバスは年間150機以上の納入を達成するのに10年以上を要したのです。Ciriumの予測では、2029年に世界で計約1,800機のシングルアイル機が納入されることになっているため、COMACの150機は市場全体の10%未満となります。

COMACが大型商用機市場でエアバスやボーイングと肩を並べる可能性があることについては、疑いがありません。しかし、この分析によれば、COMACがその市場参入のドアをくぐるペースは、30年以上前にエアバスが同じドアをくぐった時よりも相対的に遅くなることが示唆されています。現在ボーイングは明らかに弱体化していますが、いずれは問題を解決し、ボーイング737ファミリーの生産についても、COMACが2029年に構想する生産機数の約4倍の水準にまで回復させることでしょう。同じ時間の尺度で、エアバスも、COMACが構想している約6倍の規模でA320ファミリーを生産することになりそうです。

大型商用機市場への参入障壁は常に高く、ボンバルディアのシングルアイル旅客機であるCシリーズ(CSeries)が最終的に失敗に終わったように、多くの企業にとって乗り越えられない可能性が高い分野です。COMACは、そのような市場の最も新しい挑戦者です。COMACが享受しているのは巨大な国内市場です。おそらく新造シングルアイル機の総納入数の15%程度が中国向けになることでしょう。国内市場を活用して、売上を伸ばすことができるのです。しかし今のところ、その販売ペースは、1980年代に市場参入した当時のエアバスが達成したペースよりもはるかに遅いようです。したがって、今の「AB」が本当に「ABC」になるのは、かなり先のことになりそうです。

Cirium Fleet Forecastの詳細についてはこちらをご覧ください。

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