筆者:Lalitya Dhavala, Valuations Manager, Cirium Ascend Consultancy
北半球に住む私たちは冬が近づく今ごろになると、自宅やオフィスの暖房のことが再び気になり始め、家庭の電力コストについて食卓で語り合うようになります。しかし、航空業界では別の角度の話題が浮上しています。それは、航空機の動力源であるエンジンのコストについてです。いつでも航空機の中で最も高価な部品であるエンジンが、さらに高価になっています。
下のグラフに示したように、前世代のCFM56-5BまたはCFM56-7Bシリーズと、新世代のPW1100GおよびCFM Leap-1Bシリーズにおける予備エンジンのハーフライフ(整備が中間の状態)の市場価値(MV)を比較すると、プレミアムのある新世代エンジンが明らかに上方に乖離していることが分かります。この違いは、部分的にはエンジンのライフサイクル上の位置づけに起因しています。市場はOEMのスペアパーツの価格設定に強く影響を受けており、新しいエンジンの価値は多少高くなる傾向にあります。とはいえ、新世代の予備エンジンそのものの価格が急騰していることも認めなければなりません。OEMメーカーによれば、このような価格上昇は、いま私たちが経験している高インフレ環境によるものです。新世代のエンジンは、その価値を2019年当時の水準に戻すこともできました。一方で、より年数が経ったエンジンは価値回復の遅れが長引いており、もうパンデミック前の水準には戻らない可能性があります。
最初の購入時の価格に加えて、メンテナンス費用も上昇しており、最近メーカーが提示したLLP(寿命制限のあるパーツ)の価格の上昇率は、一般的なインフレ率を大幅に上回っています。こうした値上げは、新旧両世代のエンジンに適用されています。この状況は、予備エンジンの需要にも影響を及ぼしています。特に年数が経ち成熟したエンジンの場合、運航会社はエンジンを整備工場に運ぶショップビジットを避けたい一方、入手可能なグリーンタイム(取り外し後もしばらく使用可能な状態)のエンジンを求めているからです。
今回の回復期における航空機の価値に対する予備エンジン2基の価値の比率を調べてみると、その比率の推移には、予備エンジンの価格設定とメンテナンス費用の上昇という2つの要因が関わっていることが分かります。一例として、下のグラフでは、CFM56-5B4/3 PIPエンジンを搭載した2018年製エアバスA320-200と、CFM Leap 1B-27エンジンを搭載した2018年製エアバスA320-200neoを、ハーフライフおよびフルライフ(新造時と同じ状態)のメンテナンス条件で比較してみました。
パンデミック時に価値を下げた後、旅行需要が回復してくると、CFM56-5B4/3 PIPエンジンの価値は、航空機総体の価値よりも早く上昇しました。
パンデミックの間は通常のエンジン整備活動が休止していたため、グリーンタイムを確保できるエンジンユニットは、運航上の要件に応じて交換可能な予備エンジンとして高い需要がありました。
同時に、オーバーホールのコストが上昇しました。エンジンに対するMROのキャパシティの制限や、資材のサプライチェーンにおける継続的な問題があったからです。そしてエンジンのOEMは、LLPの値上げを実施しました。結果として、エンジン2基の価値は、機材価値の50%を超える状況となりました。 これは、航空機の技術が古くなるにつれて、航空機の価値に占めるエンジンの割合が大きくなるという予想に沿ったものです。
それでも、新世代のエンジンにこのセオリーは通用しません。エンジン2基の価値が機材価値に占める割合は、既に70%を超えているからです。新世代エンジンの場合は、新品価格の大幅な上昇と、インフレ率を上回るメンテナンス費用の高騰が要因となっています。フルライフの条件下では、エンジンの割合は80%を超えています。そうなると非常に機齢が低い機体の本来の価値についても、疑問が生じてきます。PW1100Gに関する信頼性の問題が広く取り沙汰されているため、エンジンプールにアクセスするためだけにA320neoを取引する例が既に散見されています。
この傾向が続けば、より収益性が高くなるとみなされる可能性があることから、新世代機のはるかに初期のビンテージ機でもパーツアウトの動きが出始めるかもしれません。
Cirium Ascend Consultancyでは、予備エンジンと航空機の価値の常に変動する関係性をモニタリングし続けています。インフレがピークに達したようにも見える中、それが価格上昇にどのような影響を与えるかが注目されるところです。
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