筆者:Daniel Hall, Senior valuation consultant, Cirium Ascend Consultancy
ビジネス航空(ビジネスアビエーション)セクターはここ数年間、一貫して成長と成功の物語を紡いできました。フライト活動は活発化し、機材の受注残も増え、販売用の在庫機数は減少しています。そして、私たち鑑定士にとって注目すべきは、2021年第1四半期から2023年末にかけて、市場価値が著しく上昇していることです。この原稿を書いている時点(2023年12月)では、ビジネスターボプロップ機、軽量機、スーパーミッドサイズ機の各カテゴリーの市場価値は、一定機齢のフリート加重ベース(つまり資産減価償却の影響を除いて算出)で、平均48~71%も上昇しています。下のグラフでは、そのような価値の変動状況が機材サイズ区分のカテゴリー別に示されています。グラフには驚くような数値が示されていますが、ここで根本的な疑問が生じてきます。つまり、このような市場価値の上昇を受けて、残存価値をどう正確に予測するのか、そして市場がよりバランスの取れた水準に向かって正常化した場合、これらの数値の下振れリスクはどうなるのかという疑問です。
一般的には、ここで基準価値(ベースバリュー)のコンセプトが登場します。国際輸送航空機貿易協会(ISTAT)は基準価値について、「基準価値とは、需要と供給の妥当なバランスが保たれ安定した市場における航空機(またはその他の航空関連資産)の価値についての鑑定人の見解である……(後略)」と定義しています。Cirium Ascend Consultancyで私たちは、将来の残存価値を予測するために基準価格を使用しています。Cirium Ascend Consultancyでは、市場価値と基準価値を(比率にして)比較することにより、当該資産タイプの市場がどのような状況にあるのかを一定程度、示すことも行っています。市場価値は鑑定士たちの予想をはるかに超えた水準で上昇していましたが、2023年半ばまでには、市場に顕著な変化が起きていることが次第に明らかになってきました。これは通常の景気サイクルではなく、価値が2020年初頭に最後に見られた水準まで下がることはないとみられます。
そこで私たちは、上記の機材サイズカテゴリーに焦点を当てつつ、現在および将来の基準価値予測を見直すプロジェクトに着手しました。
ロングレンジ(長距離)とビズライナーのカテゴリーについては、見解を修正しないことにしました。これらのカテゴリーでは他と同水準の価値変動は見られず、現行の予測は投資家へのガイダンスとして弾力性があり、かつ正確であることが証明されているからです。
これらの改定作業においては、以下の通り、私たちの判断を導いてくれたいくつかの基本事項があります。
- 私たちは依然として高インフレの環境下にあります。このため、新規の機材価格設定に大きな変化が生じ、10年以上ぶりに10~30%の幅で価値の改善が見られました。以前は、その当時のインフレにもかかわらず、新規設定の機材価格は前年比ベースで比較的安定していました。
- 機材メーカー各社の受注残は、ほとんどのモデルで2~3年分となっており、かつてない水準にまで伸びています。これにより、過剰生産や”ホワイトテール”(特定の購入見込み客なしに製造される機材)が発生しないことが保証され、新機価格での利益が維持されることになります。
- 現在は労働力、パーツ、専門技術などの面でサプライチェーンが圧迫される環境が続いており、このことが生産率を上げる能力を複合的に抑制しています。そのため前述のように、旺盛な需要がある中で安定した供給を維持することは、引き続き価格設定と価値の保持に役立っています。
- この業界では(ビジネス航空の)新規利用者が多くなっており、フライト活動は減退しているものの、なお2019年比で15%増の水準にあります。現在、多くの機材がフラクショナル(分割所有)に移行しており、このセクターのフリート数シェアは拡大しています。こうしたフラクショナル・ユーザーは、将来的に機材の個人購入者になる可能性があります。
- Cirium Ascend Consultancyの見解では、たとえ需要が軟化したとしても、メーカーは新規価格を下げることはできないとみられます。エンジン、アビオニクス(航空機に搭載される電子機器)などのサプライヤーはOEMへのコストを引き上げており、これが反転することはほぼあり得ません。こうした価格上昇は今後も続くと予想されます。
- 新造機材や低機齢の機材の価格上昇は、トリクルダウン効果があるため、価値曲線全体に寄与します。これにより事実上、多くの機材タイプでも見られるように、スタート時点で最低10~30%の基準価値の向上が生み出されます。
ここで私たちは、市場が引き続き正常化し、需給が均衡するにつれて、市場価値(マーケットバリュー)が下落すると予想されることを強調しておかなければなりません。したがって、基準価値の上昇は、これまでのところわずかです。しかし現在、基準価値に対する市場価値の比率(MV・BV率)は、その多くが概ね120~130%の水準になっており、多数の機材タイプが150%以上になっていた状況からは大きく変化しています。
変化について
私たちは、75ほどのビジネス航空の機材バリエーション(バリアント)に対して変更を加えました。平均すると、フリート加重平均でみた現在基準価値(Current Base Value)に対する私たちの見解の変動幅は32%増となります。その分布の範囲は、マイナス6.5%からプラス156%までとなっています。ほんの一握りの機材バリエーションに対しては、この大幅な見直しの一環として必要になったため、小さなマイナスの変更を加えました。上昇率が著しく高くなった機材モデルは、より安いドルの基準価値から乖離しています。例えば、ビーチジェット400の旧モデルでは、以前の価値は100万ドル以下でした。下の分布チャートが示すように、変化の約3分の2は35%以内の幅でした。
各バリアントについて、以下の点を再評価しました。
- 現在基準価値(起点)
- 残存価値曲線(Residual Value Curve) – 市場価値保持の実績と競争環境に基づく。
- 生産サイクルにおける位置づけ – 私たちは機材タイプのバリアントについて、その独自の技術サイクルに基づき、評価を若干修正しました。
- 残存フロア(下限)価値 – 当社による機材のパーツアウトまたはスクラップの推定価値。
- 変更はオンラインで2023年9月1日から12月2日まで有効。
- HondaJet(ホンダジェット)については、「エリートII」の導入に伴い2023年5月に変更したため、以下では取り上げていません。
基準価値のインフレ – 2024年1月1日
この見直し(および以下に示す数値)とは別に、毎年1月1日にすべての航空機の基準価値に対しインフレに関する変更が行われています。ここ数年、私たちは毎年末に実際の米ドルCPI(消費者物価指数)に基づくインフレ状況を評価し、その上昇分を新年の価値に適用しています。2024年については、現在および将来のすべての基準価値に3.1%のインフレ率を適用しました(通常の方法)。この率は、当社の通常の方法として、2023年11月30日に終了する12ヵ月間のアメリカのCPI-U指数(全都市、全商品、季節調整なし)を反映させたものです。また、すべてのメンテナンス費用に4.1%のエスカレーション(インフレ率より1%高い)を適用し、フルライフの価値が維持されるようにしています。前方曲線に対応する将来のインフレ率の初期値は、(ユーザーが別途選択しない限り)2%のままです。
2023年12月時点の変動状況の概要は以下の通りです。
航空機メーカー | 機材のタイプまたはバリアント | 現在基準価値の一定機齢フリート加重ベースの変化率(%) |
BOMBARDIER | Challenger 300 | 34.4% |
Challenger 350 | 18.5% | |
Challenger 3500 | 4.9% | |
Challenger 604 | 79.2% | |
Challenger 605 | 52.4% | |
Challenger 650 | 25.5% | |
Learjet 40 | 35.0% | |
Learjet 40XR | 48.6% | |
Learjet 45 | 70.5% | |
Learjet 45XR | 43.9% | |
Learjet 60 | 59.5% | |
Learjet 70 | -2.6% | |
Learjet 75 | 7.4% | |
Dassault | Falcon 2000 | 2.0% |
Falcon 2000DX | 25.4% | |
Falcon 2000EX | 1.2% | |
Falcon 2000EX EASy | 25.7% | |
Falcon 2000LX | 13.1% | |
Falcon 2000S | 3.5% | |
Falcon 2000LXS | 6.8% | |
Embraer | Legacy 600 | 46.6% |
Legacy 650 | -0.3% | |
Legacy 450 | 28.1% | |
Legacy 500 | 13.9% | |
Phenom 100 | 30.3% | |
Phenom 300 | 16.7% | |
Praetor 500 | 15.4% | |
Praetor 600 | 2.8% | |
Gulfstream | G150 | 16.1% |
G200 | 39.4% | |
G280 | 19.9% | |
Pilatus | PC-12 41 / 45 / 47 | 38.4% |
PC-12 NG | 26.4% | |
PC-12 NGX | 8.9% | |
PC-24 | 9.6% | |
Textron Aviation (Beechcraft) | King Air B200 | 37.1% |
King Air B200GT | 13.2% | |
King Air 250 | 26.2% | |
King Air 260 | 7.3% | |
King Air 350 | 33.6% | |
King Air 350ER | 17.7% | |
King Air 350i | 25.2% | |
King Air 360 | 8.4% | |
King Air C90B | 28.5% | |
King Air C90GT | 25.5% | |
King Air C90GTi | 25.9% | |
King Air C90GTx | 15.0% | |
Textron Aviation (Cessna) | Cessna 208 Caravan | 39.9% |
Cessna 208B Grand Caravan | 37.4% | |
Mustang | 40.2% | |
CM2 | 9.6% | |
CJ1 | 48.3% | |
CJ1+ | 73.6% | |
CJ2+ | 56.1% | |
CJ2 | 59.5% | |
CJ3 | 25.9% | |
CJ4 | 20.4% | |
Excel | 58.4% | |
XLS | 79.1% | |
XLS+ | 53.8% | |
Latitude | -6.5% | |
Sovereign | 49.0% | |
Sovereign+ | 10.3% | |
Longitude | 28.8% | |
X | 40.5% | |
X+ | 3.2% | |
Textron Aviation (Hawker) | Hawker 400 / Beechjet 400 | 156.1% |
Hawker 750 | 7.9% | |
Hawker 800XP | 100.9% | |
Hawker 800XPi | 43.3% | |
Hawker 850XP | 39.9% | |
Hawker 900XP | 30.5% | |
Hawker 4000 | 62.9% |
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