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Ascend Consultancyによる今後の展望:長距離ビジネスジェット市場の寸評


長距離ビジネスジェット市場全体の動向と2024年に向けての展望。

Cirium Ascend Consultancyのアナリストとコンサルタントによる最新情報の全文をお読みください。Ascend Consultancyのアナリストとコンサルタントは、航空会社、航空機製造・メンテナンス企業、金融機関、保険会社、非銀行系投資家に緻密な分析、解説、予測を提供するエキスパートです。

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Youcef Berour Minarro. Ascend by Cirium

筆者:Youcef Berour Minarro(Principal Valuations Analyst, Cirium Ascend Consultancy)

ガルフストリーム(Gulfstream)の新型機G700は、1年以上の納入遅延と数ヵ月の不確実な時期を経て、2024年3月29日に米連邦航空局(FAA)の型式証明を取得しました。これにより、長距離ビジネスジェットに分類される同機は、顧客への引き渡しに向けて大きな一歩を踏み出しました。これは、ガルフストリームの親会社であるジェネラル・ダイナミクス(General Dynamics)にとっても、収益回復をもたらすマイルストーンとなります。ジェネラル・ダイナミクスは、ボーイング737Maxの事故後、FAAの認証プロセスが長引いたために納入遅延に直面し、結果として2023年の収益において10億ドル、利益において2億5,000万ドルの損失をそれぞれ計上したと主張しています。

ファルコン10Xが納入されればダッソー(Dassault)の最大かつ最長航続距離の航空機となり、ボンバルディア(Bombardier)のグローバル7500やガルフストリームG700と直接競合することになります。

ガルフストリームは形式証明取得に加えて、G700の性能向上、すなわち当初計画よりも短くなった同機種の離着陸距離についても発表しました。G700のこの前向きな展開は、長距離ビジネスジェット機市場全体が現在どのような状況にあり、2024年に何を期待すべきかについて考える良いきっかけになると思われます。

OEMのその他の進展について

2023年にFAA欧州航空安全機関(EASA)の認証を取得したダッソーのファルコン6Xは現在、納入が進められています。現在2機が就航しており、今年中に増産が始まる見込みです。Cirium独自の新規納入予測によると、今年中に15機ほどの引き渡しが行われ、その後2025年にかけて納入が増加するとみられます。ダッソーが開発中のファルコン10XのEIS(稼働開始)は、当初は2025年を予定していましたが、サプライチェーンの問題を理由に2年遅れの2027年に延びました。ファルコン10Xが納入されればダッソー(Dassault)の最大かつ最長航続距離の航空機となり、ボンバルディア(Bombardier)のグローバル7500やガルフストリームG700と直接競合することになります。

ボンバルディアのグローバル8000は、グローバル7500(現在165機以上が稼働中)の航続距離延長型バリアント(異形機種)として2022年に再びローンチ(開発立ち上げ)され、現在もなお開発中となっています。この8000は、最大マッハ0.925の速度まで認証された航続距離7,700nmの7500の後継機となるもので、機体と全長も同じになっています。その性能の向上は、GE Passportエンジンのソフトウェア更新と空虚重量の最適化によってもたらされ、既存のタンクにもっと多くの燃料を搭載できるようになります。ボンバルディアは、改修指示書(Service Bulletin=SB)を通じて7500の所有者に改修オプションを提示する予定です。Global 8000は2025年に就航する予定です。

現在稼働中のビジネスジェット機フリートは23,000機を超えており、そのうち長距離向け区分の機材が4,000機近くを占めています。

フリート規模

現在稼働中のビジネスジェット機フリートは全体で23,000機を超えており、そのうち長距離向け区分の機材が4,000機弱(17%)を占めています。このセグメント(区分)の航空機は通常、航続距離が5,000海里を超え、さまざまなOEMの主力製品となっています。このセグメントにおけるOEMの裾野は、他のビジネスジェット機セグメントに比べてはるかに狭くなっています。長距離機材市場は現在、ガルフストリーム(49%)、ボンバルディア・グローバル(Bombardier Global)のファミリー(28%)、ダッソー(24%)が独占している状態です。このセグメントで最も人気のある機種はガルフストリームG550で、現在は570機が稼働しています。これに僅差でトライジェット(三発ジェット)のファルコン900ファミリーが続き、現在529機が稼働中です。

ソース:Cirium Fleets Analyzer, In-service, April 2024

在庫機材と流動性

2023年の12ヵ月間に公開された利用可能機材状況に基づく当社の分析によると、同年の長距離ビジネスジェット機の総在庫水準は、2022年と比較して大幅に増加しています。2023年初頭の時点では、一般に販売可能な長距離ビジネスジェット機の数は、このフリート全体の4%強にあたる約160機となっていました。この数字が2023年末までには、230機以上にまで増加していたのです(50%増)。ビジネスジェット機全体でも同様の傾向が見られ、同じ12ヵ月間で在庫レベルが最も増加したのはミッドサイズ機(中型機)のセグメントでした。

2024年4月現在、販売中の長距離ビジネスジェット機は230機で、これは販売中のビジネスジェット機フリート全体の6%に相当します。

流動性の点についてCirium Fleets Analyzerのデータをみると、2023年に取引されたフリート総数は前年比約20%減となっています。2024年はこれまでのところ、中古機販売については相対的に伸びが鈍化し、機材の市場滞留日数が伸びていることから、市況が減退している可能性があります。

ソース:Cirium Fleets Analyzer and Publicly Sourced Inventory

2024年の長距離カテゴリー機の価値はどうなっているのか?

今年に入ってからも、機材が市場に長く滞留する中、在庫水準が依然として増加を続けており、流動性は低下傾向にあります。機材についての当社の価値評価に関連して、航空機取引業者と話し合ってみると、機材価格には全般的に下落傾向が見られるようです。今年に入ってからの4ヵ月間で、既に機材の価値は若干軟化していると私たちは評価しています。私たちはこのサイズのカテゴリーだけでもガルフストリームG450、G550、V、G650/G650ERの各タイプについて評価を実施し、結果として、市場価値の評価(オピニオン)については2%から最大11%までの減少を観察しました。ただし、特にG450については、チャーター便の運航数が減少して以来、市場が大幅に減速しているため、顕著に20%も減少しています。一方でG650ERの低機齢の機材は、価値を安定して維持しています。ボンバルディアのグローバル7500は、当社による価値オピニオンが2~6%上昇しました。2024年を通して同じような傾向が続いても、驚くことはないはずです。私たちは折に触れ、市場に対して分析を報告するつもりです。

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