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航空専門家の視点

航空業界、コロナ禍で環境対応が進むか?

May 23, 2020

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、航空業界は世界の民間旅客機の約7割が欠航する近代史上未曾有の逆境に陥っています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、航空業界は世界の民間旅客機の約7割が欠航する近代史上未曾有の逆境に陥っています。航空会社の多くは公的支援を頼りに破綻回避を図っており、IATA(国際航空運送協会)は、旅客数がコロナ前の水準まで戻るには23年までかかるとの見通しを発表しています。この現実を受け、航空会社各社は保有機体の合理化に取り組んでいます。

航空業界、コロナ禍で環境対応が進むか?

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以下、コロナ禍で航空業界の環境対応が進むかについて、弊社の専門家が見解を解説します

新型コロナウイルスの確定症例数の急増に伴い、民間の旅客需要が激減しています。CiriumのTracked Utilizationデータでは、アメリカ国内の1日の到着便数が1月の2万5000便強に対し、現在は1万便強まで落ち込んでいます。これは、新型コロナウイルスの感染拡大と人命の犠牲を食い止めるために実施された渡航制限やロックダウン(都市封鎖)措置によるものです。

全体的な旅行需要の冷え込みも一因となり、原油価格の暴落が生じています。4月には一時マイナス価格にまで下落しましたが、その後サウジアラビアとロシア間で不運な原油価格戦争に終止符を打ち、日量1千万バレルの協調減産を実施することで合意が成立し、価格は安定推移しています。が、結果としてジェット燃料価格が90年代前半以来の低水準となっています。(ちなみに、最後に世界中の運用民間機が今日と同じ規模だったのも90年代前半です。)

ところが、航空会社の多くはパンデミック下で燃費の悪い機種の運用に安い燃料を利用していないことが早期兆候で見受けられます。世界のフライト追跡データを用いて2020年初と現時点の減便数を比較してみると、新型機の方が稼働率が高いことが分かります。例えばリージョナルジェット機の中でも、低燃費のエアバスA220機はパンデミックの中稼働率が77%低下しているのに対し、エンブラエルE190 E1機やBAe 146機などの経年機の稼働率はさらに急激に減少しています。また、全面的にナローボディ機、ワイドボディ機を含めて、同じ傾向がみられます。

保有機材の運用率を見ても同様です。ある特定の機種が環境にもたらす影響を簡単に判断する方法に、RPK(有償旅客キロ)当たりのCO2排出量の測定が挙げられます。その量は、RPK当たり100g以下(最も低燃費の乗用車とほぼ同水準)から120g以上に及びます。Cirium Fleets Analyzerで運用機材比率の順に上位・下位の5機種を確認すると、上位5機種のうち3機種は排出量が100g以下であることが分かります。一方、下位の5機種はいずれもRPK当たりの排出量が100gを大幅に上回っています。

これは一時的な現象なのでしょうか。それとも、新型コロナが低排出型航空機への移行に拍車をかけている証拠なのでしょうか。直近の航空大手による発表では、楽観視できる理由がいくつか示されています。デルタ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空のアメリカ三大航空会社は、それぞれ保有機材の中で経年機の退役の前倒しに踏み切っています。これには、ボーイング757・767機、MD-80・90機、またエンブラエルE190機やエアバスA330機といった経年機が含まれます。また米国以外では英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)、豪カンタス航空、英バージン航空、エールフランス/KLMの各社が747機の退役を早めており、ルフトハンザ航空とイベリア航空はA340の退役前倒しを現在検討しています。当然ながら、各機種の価値も打撃を受けています。

それでは、なぜ経年機が段階的に削減されているようにみえるのでしょうか。とりわけ燃料価格の低水準を踏まえると、古い航空機の方が運航費が安くなると考えがちです。まずはじめに、運航者が考慮せねばならないコストは燃料以外にもあり、特に長期の保守契約を結んでいる可能性が低い経年機種においては、整備費も大きな負担となります。さらに、燃料のヘッジ・ポジションにより、航空会社の多くは燃料価格の下落をフル活用できていないのが実態です。燃料がタダでない限り、新型機の方が燃料費が安い、ということは念頭に置いておくべきでしょう。しかし、環境問題も考慮すべき大きな課題です。業界として野心的な排出削減目標を達成するには、今から2050年までに保有機材の燃費を毎年最低でも2%ずつ改善しなければなりません。実際、中には航空会社への財政支援の条件として排出削減を求めている政府もあります。これは、当然ながら「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(CORSIA)」に規定された既存の義務に関連しています。

CORSIAとして知られる「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム」は、運航方式の改善、代替航空燃料(SAF)の活用、また極めて重要な新技術の導入といった数々の手段により、2020年以降カーボンニュートラル成長の達成を航空会社各社に義務付ける制度です。90年代以来、RPK当たりの燃焼燃料量は半分以下に削減されていますが、さらに削減することは大きな課題となります。よって、燃料価格の低下を言い訳に経年機の退役を先延ばしにする余裕がないことは、業界として痛感しているわけです。

新型コロナウイルスの影響により、民間航空業界は間違いなく第二次世界大戦以来最大の苦境に立たされています。また、業界の短期的な生き残りは、公的支援と、業界リーダーによる冷静な財務上の意思決定にかかっています。しかし業界リーダーらは、環境面において政策当局をはじめ、投資家、また環境意識が益々高まる世間の厳しい目にさらされていることも十分意識しています。よって、より長期的な成長を目指すためには、環境責任を回避しているような印象を与えてはなりません。幸い早期兆候では、コロナ禍と燃料価格の下落にも関わらず、環境責任が引き続き真摯に受け止められていることが示されています。

上記の動画では、Michael Grahamが機種別の運用パターンや、パンデミック下における燃料価格下落の影響、また2020年以降カーボンニュートラル成長の達成を航空会社各社に義務付けるCORISAをはじめとする環境スキームについて見解を述べています。ぜひご覧ください。

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