- 航空専門家の視点
ドリームライナーの第一陣の就航機、改修の時期が接近中
ボーイング787-8の第一陣が就航してから10年以上が経過し、いくつかの航空会社が同機の客室の改修プログラムを発表しています。Ciriumのシニア航空データリサーチアナリストであるJames Mellonが、機材の内装更新における新たなビジネス機会について考察します。
筆者:James Mellon, Senior Aviation Data Research Analyst, Cirium
Ciriumは、AIX 2024のOfficial Data Partner(オフィシャル・データパートナー)です。
ボーイング787-8(ドリームライナー)の第一陣の就航機は、機齢が既に10年以上になっています。機体は大掛かりなメンテナンスが必要であり、最近ではいくつかの航空会社が運航機の客室の改修プログラムを発表しています。Ciriumのシニア航空データリサーチアナリストであるJames Mellonが、Cirium独自のデータ洞察力を駆使して、この新たな市場機会を分析します。
ボーイング787はまったく新しい機種と見なされていますが、商用運航は2011年から行われています。したがって、最も古い787-8型機は、10年以上にわたって運航されています。機体の初回の構造的なメンテナンス・点検が必要な時期に達しているだけでなく、客室を刷新する機種の最有力候補にもなっています。
いくつかの航空会社は最近、自社の787-8を今後数年間で新しい客室に改修することを明らかにしました。とはいえ、Ciriumが最近発表したGround Events(英語)分析ツールを使って調べてみると分かる通り、大掛かりな内装アップデートが行われるのは、これらの改修例が初めてではないとみられます。
Ciriumは2019年10月以降、全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)、ユナイテッド航空の各社が運航する787-8を対象に、計18件の客室改修事象を追跡してきました。
先ごろユナイテッド航空は、自社のワイドボディ機全機について、新しいビジネスクラス「Polaris(ポラリス)」を組み込んでリフレッシュするとともに、プレミアムエコノミーの客室「Premium Plus(プレミアム・プラス)」を導入しました。Ground Eventsの分析によると、ユナイテッドの787-8の12機すべてがその改修作業のため、アモイにあるHAECOの施設(Taikoo Aircraft Engineering)に移送されました。
787-8については、2011年から12年にかけて最初の15機が納入された日本では新規航空会社の立ち上げに使用されています。格安航空会社(LCC)のZIPAIR Tokyo(ジップエア・トーキョー)は2019年にJALによって設立され、当初のフリートは親会社であるJALの最も機齢の高い787-8で構成されていました。この機材譲渡に先立ち、機体の整備点検と客室の改修が行われ、座席数は206席から290席に増え、より高密度な座席レイアウトが導入されました。
ジップエアのフリートについてはその後、工場で生産されたばかりの787-8が2機、補充されました。しかし、ボーイングが2021年6月から2022年8月にかけて787の納入をいったん停止したため、2機とも当初の予定より遅れて同社に到着しています。新型コロナウイルスのパンデミック後に増加した旅行需要に対応するため、JALは中古の787-8を複数、ジップエアに追加譲渡していますが、いずれも以前に譲渡した機材と同様の客室改修工事が必要となりました。
Ground Eventsの分析によると、ジップエアの6機の787-8は、3つの異なる施設において、自社とサードパーティのMROプロバイダーにより改修が施されました。
ANAグループはAirJapan(エアージャパン)を立ち上げ、2024年2月に運航を開始しました。ジップエアと同様、エアージャパンもANAから譲渡された高機齢の787-8を使用して中距離・低コストの運航サービスを行っています。さらに5機がオールエコノミーの客室に改修され、2024年中に就航する予定です。
「-8」は787の初期型のバリアント(異形機種)で、胴体延長・長距離型の787-9が初就航するまでの2年半の間に計165機が納入されています。
最近、787-8の改修プログラムに関する航空会社の発表が相次いでいます。改修の際、古い座席は多くの場合、新造機との共通化を図るため新しい座席に取り替えられます。
Ciriumのフリートデータによると、787-8は7機が永久に使用を停止しました。ボーイングがプロトタイプ(試作機)として保有する4機に加え、Norwegian(ノルウェイジアン)の旧機体2機が2023年にパーツアウトされています。また、運航会社に引き渡されることのなかった別の機体も部品を取り外され、解体されようとしています。
これまでに787の全バリアント計1,100機超が製造されており、中でも787-8は現在383機が稼働中で、11機が保管されています。787の受注残は800機弱で、その中には48機という比較的少ない数の787-8の確定購入契約が含まれています。つまり、787の生産は2030年代まで保証されているということです。
新型ワイドボディ機の製造・納入ペースは、航空会社が希望するよりも遅くなっています。結果として、市場では中古機が好まれるようになりました。その機材価値は上昇し、長期的な運航を意図した客室改修のビジネス事例が正当化されるようになっています。
航空会社6社が最近、今後数年以内に787-8の客室改修工事を実施すると発表しました。こうしたアップグレードの中心となるのは、新しい座席、機内エンターテインメント、インターネット接続システムです。場合によっては、これらの航空会社が運航する、一般的には低機齢の他のワイドボディ機と内装が同じものになるでしょう。
2019年にCollins Aerospace(コリンズ・エアロスペース)製の新しいビジネスクラス席「Club Suites(クラブ・スイート)」を立ち上げたブリティッシュ・エアウェイズは、2024年内にそれを787-8フリートに導入します。座席の横方向の配列が従来の「2-3-2」構成から「1-2-1」構成に変更されたため、すべての乗客が通路に直接アクセスできるようになり、利便性が向上しました。これらの機材は、他の客室のアップグレードとWi-Fiの追加を含めて、新たに納入される同類機種の787-10やエアバスA350-1000と同等の内装となります。CiriumのGround Eventsの分析によれば、今回の787-8の改修は、イギリスのカーディフにあるBAの整備施設で実施された同社の777フリートの改修に続くものです。
エチオピア航空はAdient Aerospaceに対し、787のビジネスクラス用ライフラットシートの供給を依頼しています。CiriumのFleets Analyzerによると、エチオピア航空は、150度のリクライニングが可能で「2-2-2」配列のアングルシートのビジネスクラスを備えた787-8を10機運航していますが、どの機材に改修を施すかについては発表していません。この10機は同社保有機のうち最も機齢の高い787-8で、「1-2-1」配列でプライバシードア付きの最新世代のビジネスクラスシートが普及する前の2012年から2014年にかけて納入されました。
今後予定されている改修のすべてにおいて、プレミアム客室が「1-2-1」配列に変更されるわけではありません。
ジェットスターは、アブレスト(横一列の席数)が「7」の構成を維持する予定ですが、プレミアムの旅行需要が高まっているため、この客室クラスの座席数を21席から44席に増やします。カンタス航空の子会社も、11機の787-8に乗務員休憩スペースを設置すると発表しており、それらの機材を新たな長距離路線の市場開拓のために使用する可能性を示唆しています。Fleets Analyzerによると、ジェットスターは98機のA320neoファミリーを発注残として確保しており、その中にはA321XLRが36機含まれています。これらの長距離用シングルアイルジェット機は、現在787-8が就航しているジェットスターの路線に投入される可能性があり、それによりジェットスターの路線網拡大の余地が広がることになります。
複数の航空会社がこうした比較的機齢の低い機材の客室改修を計画していること、また重整備が必要なタイミングでもあることから、論理的に考えて、787-8を運航する他の航空会社もこの機会に自社フリートを更新するとみられます。