筆者:Holly Ballantine, Aerospace Key Account Manager, Cirium
「航空業界はインダストリー4.0に移行したのか?」と題されたCiriumの2023年最後のウェビナーでは、関係業界の専門家が、第4次産業革命を受け入れようとする航空セクターの進歩と課題について議論しました。私は光栄にも、ブエリング航空のプロダクト&インサイト担当リーダーであるArnau Guarch氏、SatairのEMEA担当セールス統括であるMartin Couet氏、MTUのセールス担当ディレクターであるAxel Homborg氏、そしてeCubeのCEOであるLee McConnellogue氏を交えたパネルディスカッションの司会を務めました。
ディスカッションの冒頭ではライブ参加者に対し、航空業界のインダストリー4.0への移行がどの程度進んでいると感じているかについて、以下のように意見を求めました。
航空業界におけるインダストリー4.0への移行はどの程度進んでいるでしょうか?
今回のウェビナーでは、予知保全(プレディクティブ・メンテナンス)の機会、OEMと規制当局の協力の必要性、AIの初期段階での導入、進化する「ビッグデータ」の視点、2024年の予測など、いくつかの重要なテーマが取り上げられました。
データ主導の効率化
航空業界においてデータ主導の効率化ができるかどうかは、適切なデジタルプラットフォームを使用してその価値を引き出せる熟練した人材を確保できるかどうかに大きく依存しています。Martin Couet氏は、まずは各種ツールを効果的に使うためのトレーニングが不可欠であると指摘しました。
Arnau Guarch氏は、ビジネスにおけるデータ活用に関するブエリングの手法について、以下のように説明しました。
私たちは、数多くの取り組みを行っています。収益を最適化し、コストを削減するための取り組みです。それは、私たちのサービスを市場の需要に合わせて調整し、意思決定する際に役立ちます。特に、路線ネットワークの堅牢性を向上させ、定時性を改善し、運航の混乱を減らす上で重要な役割を果たします。
Arnau Guarch
予知保全とアフターマーケット活動
もうひとつの重要な指摘は、メンテナンス事象やアフターマーケット活動をより適切に予測するためのデータの活用でした。航空会社は高度な分析技術とリアルタイムのモニタリングシステムを活用することにより、メンテナンスのスケジュールを最適化し、ダウンタイム(休止時間)を削減するとともに、安全対策を強化し、最終的には運航効率を向上させることができるのです。
Axel Homborg氏は、MTUはデータを使ってエンジン資産について理解してもらい、翼に資産が残っている可能性や早期のショップビジット(整備工場への運搬)を必要とする可能性を文脈化することを通して、顧客を支援してきたと説明しました。さらにMTUは、より良好なトレーサビリティ、より明確なプロセス、より少ないペーパーワーク環境を実現するという目標を掲げ、エンジン資産のいわゆる“汚れた指紋”(修理などの記録)のデジタル化にも力を入れています。続けてHomborg氏は、寿命制限のある部品を考慮した場合には、土壇場のタイミングで部品をリクエストして高額の代金を支払うのではなく、その必要性を事前に予測し、当該の部品を予め確保しておくことにより、業界の可能性が広がると指摘しました。
Martin Couet氏は、Satairがデータを活用して、適切な部品を適切な場所、タイミングで確実に顧客に供給する方法を説明しました。また、Guarch氏は、運航実績を向上させるためのブエリング航空のメンテナンスの取り組みに言及し、その実例を紹介しました。
OEMと規制当局の連携
航空業界がインダストリー4.0を達成しようとする際に大きな壁になるのは、業界が標準的アプローチの面で団結できるかどうかです。
パネルディスカッションでは、航空業界においてインダストリー4.0の導入に向けた実質的な変革を実現するため、航空機製造企業(OEM)と規制機関の双方が、その変革を推進する際に責任を共有することの必要性について議論されました。すべての業務における安全基準を維持しながら、異なるステークホルダーのシステム間の相互運用性を確保するためには、最低限の業界標準を確立することが極めて重要になります。
現在、航空関連業界の多くの関係者が直面しているのは、データのサイロ化の問題です。Couet氏は、協働のための計画を策定し、航空機の製造、運航、メンテナンス活動、規制遵守に関わるさまざまな事業体の間でシームレスなデータ共有を可能にする一元化されたシステムを構築するためには、すべての関係者からの多大な投資が必要になると述べました。
Lee McConnellogue氏は、eCubeが常に顧客を中心に据えつつ、サイロ化を打破しようとしている方法について次のように述べ、その一例を紹介しました。
どの企業も独自のデジタルプラットフォームを持っていますが、相互に情報交換する能力は非常に限られていました。eCubeは、顧客と効果的に交流するための適切なシステムの導入を保証しています。これはますます、ある種のAI機能を意味するようになっています。
Lee McConnellogue
AI導入の初期段階
ウェビナーで議論された顕著なトレンドのひとつが人工知能(AI)で、航空業界への応用はまだ初期段階にあることが指摘されました。パネリストたちはAIが活用されているさまざまなユースケースを強調しましたが、その全員が認めたのは、特にシナリオプランニング活動においては、まだ実現に至っていない多くの可能性があるという点でした。
AIが有望視されている分野には、天候パターンや空の交通渋滞の分析に基づく飛行ルートの最適化、パーソナライズされたサービスによる旅客体験の向上、エンジン性能データの分析による燃料効率の改善、手荷物処理やセキュリティチェックといったルーチン作業の自動化、インテリジェントなアルゴリズムによるより良い意思決定の実現などが含まれます。
進化するビッグデータの視点
私たちは議論の中で「ビッグデータ」という用語についても話し合いました。パネリストたちは、この用語が、それぞれの文脈や技術的成熟度により、さまざまな人々や企業にとって、それぞれ異なる意味を持つことを強調しました。
McConnellogue氏は「ビッグデータ」に対する自らの見解について、次のように述べました。「私たちは長い間、さまざまな意味を込めてこの用語を口にしてきました。ほとんどの企業にとってそれは、より多くの収益を引き出したり、効率性を高めたりするのに十分なデータをつかむことです」
McConnellogue氏は、これをますます「信頼できる唯一の情報源」(Single Source of Truth)を提供するためのデータ収集の機会だと見なすようになっているといいます。それをモデルとし、迅速に対応できるような、信頼ある情報の源なのです。
おそらく、明確な目的やそこから得られる実用的な洞察もなく、ビッグデータセットだけに集中するのではありません(これでは情報過多を招く可能性があります)。それよりもむしろ、組織は、具体的な目標を念頭に置きつつ、関連するデータセットを効率的に活用するために、より洗練されたアプローチの採用を検討できるようになるのです。
「信頼できる唯一の情報源」
McConnellogue氏は、適切なデジタルプラットフォームを選択することの重要性に触れ、eCubeでの経験について次のように述べました。
「財務プラットフォームであれ、エンジニアリングやメンテナンスのための一般的なERP(企業・資源・計画)であれ、私たちeCubeは、次のステップに進むための新しいデジタルプラットフォームの選択の方法を模索し続けています。そのような製品を選択する際、私たちはますます、人工知能の世界にどのように組み入れることができるかを検討するようになっています。その世界とは、『信頼できる唯一の情報源』を確立することを可能にするだけではなく、組織にとっての『信頼できる唯一の情報源』を確立し、顧客やサプライヤーにとっての『信頼できる唯一の情報源』に効率的に繋げることを可能にするものです」
また、自分が扱っているデータを信頼することも論点となりました。航空業界では、データソース次第で、ひとつの疑問に対して複数の答えが導き出されることがよくあります。
業界として活用すべきデータの量は膨大であり、それを解放し、共有すること自体が障壁になっていると言ってもいいほどです。設計、製造から運用、メンテナンスに至るまで、航空機のライフサイクル全体を通じてシームレスなデータの流れ、すなわち「デジタルスレッド」を構築することは、当社の専門家が提起したテーマへの対応に役立つ可能性があります。航空業界の「5.0」を考えるより前に、このことが出発点になるに違いありません。将来的には、完全自動化された航空交通管制(ATC)の環境下でのシングルフライトデッキ運航や、現実世界をコンピューター上に再現するデジタルツイン(バーチャルなコピー)の利用が進むことでしょう。それまで私たちは、航空業界の「4.0」を実現し、理解する努力をしなければなりません。
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