筆者:Niha Shaikh, VP of Product for Cirium Sky at Cirium
航空業界のデジタルトランスフォーメーションの状況を分析する際には、他の業界が技術の進化によってどのような恩恵を受けてきたか、また航空業界がそこから何を学べるかについて検討することが有効です。
デジタル技術の進化はこの50年間、目覚ましい勢いで加速してきました。 今や世の中は高度に発達しており、重要な疑問に対しても、検索ワードを入力して自分で調べるよりも、AlexaやSiriに尋ねる人の方が多いかもしれません。20年前はインターネットを利用している最中には電話には出られませんでしたが、現在はインターネットは地球上での生活の中心とも言える存在です。
銀行業界を例にとってみても、クレジットカードやATMに頼っていた時代から、テキストメッセージだけで送金ができるまでに進歩しました。Monzo、Starling、Revolutなどの新興バンクの台頭により、デジタル技術が私たちの知る銀行業務を完全に変えたことが実証されました。
銀行業界と航空業界には多くの類似点があります。どちらも規制の厳しい業界であり、時代遅れの技術と業界に深く根付いたレガシーシステムを使用して長年営まれてきました。そうしたことを考えると、デジタル変革は、今や必須のミッションだと言えるでしょう。銀行業界が主流のハイテク分野の最先端技術を活用して自らを変革できるのであれば、航空業界も同じように変革できるはずです。
航空業界がこれまでデジタルイノベーションに取り組んでこなかったと言っているわけではありません。航空機自体は技術開発の最前線に立つべき製品であり、航空会社も、航空券の販売にeコマースを利用し、オンラインチェックインやモバイル搭乗券を活用するなど、飛躍的な進化を遂げてきました。自社ウェブサイトでAIチャットボットを使用する航空会社が現れるほどとなっており、業界の一部では新しい技術が受け入れられつつあります。
しかし、航空業界の主要な分野では、この急速な技術的進歩がもたらす恩恵を享受しきれていません。
このことについて、ロンドン・ヒースロー空港を出発し、ドバイでストップオーバーした後に香港まで運航するフライトを例にとって、さらに考えてみましょう。このフライトの空港出発時だけをみても、少なくとも15回、関係する場面が出てきます。一般的に、遅延を算出する際には、任意の時間的なマイルストーンを使用します。私たちは、一度発生してしまった遅延の長さを計算することはできますが、地上にせよ上空にせよ、将来の遅延の有無やその遅延の存続時間を予測するのは非常に難しいことです。遅延の要因は、装置の交換から乗務員の交代、空港の混雑、技術的な問題や乗客に関する問題、そして航空会社ではコントロールできない天候の問題に至るまで、多岐にわたります。また、航空会社は、燃料を無駄に消費しないように、ルート上を効率よく運航する方法を考える必要があります。航空機が予想より早く目的地に到達できなければ、待機旋回(ホールディングスタック)の状態になる可能性が高まります。これらすべての検討材料を念頭に置くことが極めて重要です。
こうしたフライトの間ずっと、すべての地点で何が起こっているのかを総合的に考慮するのは、とてつもなく大変なことです。ユーロコントロール(欧州航空航法安全機構)やFAA(アメリカ連邦航空局)のような組織は、世界の特定の地域の空域を一体化する上で重要な役割を果たしていますが、私たちが本当に必要としているのは、そうした空域が世界規模で見た場合にどのような姿をしているのかを明らかにすることです。
空港、航空会社、航空管制サービスプロバイダー(ANSP)など、すべての航空関係者が、各フライトを一元的に把握できるようにする必要があります。
フライトのあらゆる航空交通管制(ATC)情報を一元的に把握することにより、ANSPは空域ユーザーの行動に影響を与えることができます。ANSPの第一の目的は、自らの利害のあるエリアにおいて、効率的で安全な航空輸送サービスを提供することであり、それが収益につながることになります。ある航空機オペレーターが空域を飛行しないことを選択した場合、ANSPは、その空域ユーザーの運航計画プロセスに何が生じているのか、空域ユーザーがどのようにしてルートを選択しているのかなどを理解したいと考えます。手元にある情報が多ければ多いほど、ビジネスを強化するための意思決定が容易になります。
現在はANSP、空港、航空会社という3つのステークホルダーがこれまで以上に緊密に連携し、すべての人、とりわけ乗客により良い体験を提供するために努力していることが分かります。
とはいえ、航空交通流管理(ATFM)に関するいくつかの長期的な課題を解決するためには、相互に結びついたグローバルなメカニズムが必要です。長距離フライトがいつ空域に入ろうとしているかを把握し、その需要に応じてキャパシティを管理できるようにすることが重要なのです。
絶えず変化する事業環境の中で需要とキャパシティの制約を管理し、同時に安全で効率的な運航を維持することは、今もなお航空業界にとっての課題であり続けています。需要とキャパシティを管理するデマンド・キャパシティ・バランシング(DCB)は、究極的にはIRROPS(イレギュラー運航)、ディスラプション管理、スケジュール最適化、フリート活用の中核となるものです。パンデミックと回復の過程はその好例です。業界のオペレーションが、需要やキャパシティの変化に対応して改革されたのです。平時であれば、圧倒的な需要に対してキャパシティが制約されるところ、パンデミック中には全く逆の状況となったわけです。
ほかの主要な関心分野となるのは、サステナビリティです。気候変動は現実の問題であり、現在の空域ユーザーの運航条件を悪化させないようにする必要があります。
異なる出発・到着時間のマイルストーン、遅延時間、制約事項の発効(例えば、NOTAMが発出された場合、またはトラフィック管理イニシアチブが開始された場合)、重要な気象情報、着陸・離陸時の空港状況など、すべてのフライトオペレーションに関するすべての状況を把握することにより、遅延を認識し、その理由を理解し、需要に応じてキャパシティを管理することができるようになるのが理想的です。
では、そのためにどのように取り組めばよいのでしょうか?ただ縦割り式で取り組みを進めるのではなく、グローバルに取り組みを進めていくためには、どのようにテクノロジーを活用すべきなのでしょうか?状況や背景を把握し、データを効果的に活用することにより、業界をより良い形に再構築するだけではなく、イノベーションを起こし、業界の新しい道を切り拓くことができます。
データが今のような商品になる何十年も前に、イギリスのティム・バーナーズ・リー卿は、「データは貴重なものであり、システムそのものよりも長く存続する」と述べています。 私たちは既に、主要なテクノロジー業界においてこの言葉が実証され、データの力を活用することによってイノベーションが加速している様子を目の当たりにしています。Ciriumでは、航空関連業界のデータサイエンス、分析、テクノロジーを結集することにより、データのサイロ化を解消するだけではなく、業界に携わるすべての関係者に恩恵をもたらす革命を起こすことができると考えています。
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