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急速に進むイノベーション――中東は未来の航空業界をいかに再構築するのか
長い間、野望と成長の象徴であったこの地域の航空関連業界は今、目覚ましい変革の最中にあります。これは飛行機利用の未来を確実に作り変えるものです。
筆者:Alex Brooker, VP of research, development and discovery
中東の真ん中で今、静かな革命が起きています。長い間、野望と成長の象徴であったこの地域の航空関連業界は今、目覚ましい変革の最中にあります。これは飛行機利用の未来を確実に作り変えるものです。
技術革新、持続可能性、旅客体験の向上に専心する中東の業界関係者たちは、これから世界の航空コミュニティに向けた新たな基準を打ち立てようとしています。今週ドバイで開催されるArabian Travel Marketで、世界の航空関連のステークホルダーが一堂に会します。この地域での取り組みと具体的なビジネス機会について見ていきましょう。
中東での変革の最前線にいるのが、世界有数の航空会社や空港を有するアラブ首長国連邦です。ドバイを拠点とし、年商290億ドル(約2兆8000億円)を誇るエミレーツ航空は、航空業界における可能性の限界を常に押し広げてきました。
同社は250機以上の航空機を保有し、世界140ヵ所以上の目的地に路線網を展開しており、最新技術を駆使して卓越した旅客体験を提供しています。機内エンターテインメント・システムから生体認証のセキュリティ対策に至るまで、この航空会社のイノベーションへの取り組みは、業界に高いハードルを設定してきました。
しかし、そうした卓越性を追求しているのはエミレーツ航空だけではありません。アブダビを拠点とするエティハド航空のほか、フライドバイ(flydubai)やエア・アラビアといった格安航空会社(LCC)も、サービスの強化や参入地域の拡大を通して大きな前進を遂げています。純粋な運航実績面では、オマーン・エアがCiriumの定時運航率(OTP)ランキングで世界第3位に入り、2023年度の「地域OTPアワード」を受賞しました。キング・ハーリド国際空港(RUH)は2024年3月の定時出発率が87.32%で、世界で2番目に定時性の高い空港となりました。これらの航空会社や空港は、長期的な成功を確実につかむために、変化する顧客ニーズに適応し、持続可能な慣行を取り入れることの重要性を認識しています。その意味で、この地域の航空業界全体にとって困難な月であったにもかかわらず、欠航やフライトの遅延を最小限に抑えたことは、誰もが認める前向きな一歩になりました。
中東・アフリカにおけるCiriumのOTP地域最新情報――2024年4月発行
中東・アフリカでは、今年3月の欠航便数が12%も増えました。欠航が2月の1,739便から1,950便に増えたのです。Safair(FA)は3月も、中東・アフリカ地域および格安航空会社カテゴリーの両方において、なお揺るぎないリーダーでした。
同社の3月のOTPは96.67%と傑出しており、2月の93.96%からは3ポイント近く上昇しました。
これは世界の全地域、全カテゴリーにおいて、全航空会社中最高のスコアでもあります。次いでオマーン航空(WY)が、93.32%という素晴らしいOTPで2位に入りました。ロイヤル・ヨルダン航空(RJ)は、OTPが前月より13ポイントの脅威的な上昇を示して89.68%となり、ランキング7位から3位に浮上しました。ガルフ・エア(GF)は、OTPが2月の84.08%から4ポイント上昇して88.35%となり、ランキング4位を維持しました。カタール航空(QR)のOTPは87.36%で、前月の83.27%からは4ポイント上昇し、ランキングは5位となりました。この地域の空港も3月、大幅に実績を向上させました。キング・ハーリド国際空港(RUH)のOTPは前月の83.13%から4ポイント上昇して87.32%となり、世界の空港カテゴリーで2位の座を確保しました。クウェート国際空港(KWI)のOTPは87.32%で、2月の80.51%から7ポイント近く上昇しました。一方、イズミル・アドナン・メンデレス空港(ADB)のOTPは91.61%となり、前月のOTP89.57%を2ポイント上回りました。[B(1]
イノベーション・ハブがコラボレーションを可能に
この地域の航空業界で最も注目すべき進展のひとつは、ドバイにあるエミレーツのEbdaaのようなイノベーション・ハブの出現です。Ebdaaは、創造性、コラボレーション、そして持続可能なエネルギーの触媒のような役割を果たします。この最新式の施設では、大学、テクノロジー・サプライヤー、新興企業から極めて優秀な頭脳が結集し、先端ソリューションの開発を推進しています。水素を動力源とする航空機のプロトタイプ(試作機)から先端的な航空交通管理システムに至るまで、Ebdaaから生まれる画期的なプロジェクトの数々は、航空関連業界の未来を形作るというこの地域の誓約の証しです。
しかし、イノベーションは新技術の開発だけにとどまりません。中東の航空業界は、トレーニングや乗客体験に対する新しいアプローチも開拓しています。
例えば、エミレーツ航空は、航空機の乗務員・従業員の新人研修やトレーニングを強化するため、拡張現実や没入型体験のテクノロジーを導入しています。これらのテクノロジーは、職場環境のリアルなシミュレーションの提供を通して、トレーニング時間を短縮するとともに、新しい従業員が円滑に職場に適応することを可能にしています。
同様に、世界で最も忙しい空港のひとつであるドバイ国際空港は、2024年まで完全にタッチレスでチェックポイントを通過できるようにする計画を立ち上げ、この種のテクノロジーの活用において業界をリードしています。ここでは、乗客は高度な生体認証技術により、継ぎ目のないシームレスなチェックイン、保安検査、搭乗手続きを体験できるようになります。この取り組みは、待ち時間を短縮し安全性を高めるだけではなく、新型コロナウイルスのパンデミックを経て、より衛生的で便利な旅行体験を提供しようとするものです。こうした進展は中東全体で見られるようになっており、乗客が空港内を移動し、航空会社のスタッフと接する方法に革命をもたらしています。
とはいえ、急速な成長とイノベーションを遂げる中東の航空関連産業に課題がないわけではありません。中東では熟練労働者の不足に直面しており、2033年までにUAEだけで約22,000人のパイロットと乗組員が必要になるという試算もあります。この問題に対処するため中東諸国は、次世代の航空分野の専門家を育成する教育機関と連携し、トレーニングおよび開発プログラムに投資しています。
もうひとつの課題は、気候変動の問題に直面するなか、持続可能な慣行が求められていることです。中東の航空会社や空港は、CO2排出量の削減の面で大きく前進しましたが、まだやるべきことは数多くあります。持続可能な航空燃料の採用、より燃料効率の高い航空機の開発、環境に配慮した地上業務の実施といったことはすべて、航空業界の長期的な持続可能性を確保するための重要なステップです。この目的に向かって中東の航空会社や空港は、持続可能な航空燃料の採用、燃料効率の高い航空機の開発、環境への負荷の低い地上業務の実施など、環境に優しい取り組みに対し多額の投資を行っています。例えばエティハド航空は、2035年までにCO2素排出量を50%削減し、2050年までにネットゼロ(CO2排出量実質ゼロ)を達成すると誓約しています。このような努力は、運航上の利益にとどまらず、今は多くの取引が環境への配慮を求める 「グリーンな紐付き 」であることから、業界の財務的な裏付けを確保するためにも不可欠です。Ciriumはこうした分野にも多額の投資を行っています。最近では当社のEmerald Skyについて、ロッキーマウンテン研究所から、航空業界に合わせて調整された初の気候変動対応型金融フレームワークの先端ツールとして適格性認証を受けました。
このような課題があるにしても、中東の航空業界は今、楽観と決意のムードに覆われています。
この地域のリーダーたちは、航空関連産業が持つ計り知れない可能性を認識したうえで、その将来への投資に全力を傾けています。サウジアラビアが掲げている野心的な計画から、中東地域全体で築かれつつある戦略的パートナーシップに至るまで、この業界を前進させるという一体感と目的意識が強く感じられます。
今後数年間で、ここからさらに画期的な進歩が生まれることが期待されます。水素を動力源とする航空機の開発から、シームレスかつタッチレスな旅行体験の実現まで、中東の航空業界は可能性の限界を押し上げようといるのです。これらのイノベーションが実現すれば、私たちの旅行方法が一変するだけでなく、新世代の起業家やイノベーターたちに大きな影響を与えることでしょう。中東の航空業界のサクセスストーリーは、ビジョン、協力、そしてイノベーションの力の証しなのです。この地域は、人材、インフラ、テクノロジーへの投資を続けることで、より輝かしく持続可能な未来への礎を築きつつあります。その地平線にしっかりと目を向け、一つずつイノベーションを実現しながら、中東は世界の航空業界を新たな高みへと導こうとしています。