Cirium 最高マーケティング責任者(CMO) マイク・マリック
新型コロナウイルスのパンデミックが発生してからというもの、航空業界ではパンデミックの話に終始し、重要な議論が棚上げされてしまいました。パンデミック以前に世界の航空会社が重点的に取り組み、カンファレンス、イベント、メディアなどで活発に議論されていたのは「サステナブル(持続可能)な航空」だったのですが、頭の片隅に追いやられてしまいました。
しかしながら、パンデミック終息後の旅行業界では、再度、サステナビリティなど環境保護への取り組みが話題の中心になるでしょう。パンデミックは、世界中の航空会社で航空機の引退と新規導入が早まるという大きな変化をもたらしました。燃費の悪い機体は売却されるか、駐機されています。実際、運航が削減されたコロナ禍の約18カ月間、地球上を飛び回る航空機は大幅に減少していたのです。航空業界が休止状態になったことで、空の青さに気が付いた人も少なくないでしょう。
上場企業に求められる情報開示:
サステナビリティを測定すること自体は新しい取り組みではありませんが、航空業界のこれまでの対応は十分ではありませんでした。
Ciriumのお客様である航空会社や航空機メーカーが繰り返し伺うのは、「サステナビリティへの取り組みを測定し、投資家に信頼性高く開示できるデータを取得するために、Ciriumがどのように支援してくれるのか」ということです。
たとえばコカ・コーラ、Amazon、Appleなどのサステナビリティへの取り組みが先進的な企業は、投資家やその他の利害関係者の理解を得るために、自社の開示可能なサステナビリティ関連のデータを積極的に収集しています。今日の“株式会社”は、投資家に 「重要」な 情報を開示する取り組みを進めており、何が 「重要」 であるかの判断は、株式会社とその経営陣に委ねられているのです。なぜならば、株式会社とその経営陣は、どのような要因が事業に影響を与えるか、また合理的な投資家にとって何が「重要」であるかを適切に判断すべき主体であるからです。
投資家は、「企業の財務リスクだけでなく、企業が地域社会に与える影響など様々な課題に対するリスクを理解する」ために、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報を要求することも増えています。ESGデータの公開については、2020年にGAO(米国会計検査院)が調査した報告書でも投資家からの要求が増えていることを指摘しています。その一方で、このGAOの報告書では、「環境保護の取り組み効果について、その測定値を開示するための明確な方法はない」と結論づけています。
航空機の燃料消費による現在のCO2排出量は、世界の年間CO2排出量の約2%を占めており、その割合いは比較的小さいのです。だからと言って、いつまでも航空機のCO2排出量の測定値を開示するための明確な方法がないままでよいはずがなく、この状況は将来変わっていくと確信しています。というのも、世界のCO2排出の要因となるものには、急速な増加量を見せているものがあり、航空機の燃料消費はまさにそうなのです。その証拠に、フライト数は過去20年ごとに倍増しています。また、航空機の温室効果ガス排出量を測定して報告するだけでは、環境に対する影響の全体像を示すことはできないことも分かっています。問題はより広範囲に及び、航空会社や航空機メーカーは、以下の情報も考慮しなくてはいけません。
- 再生可能エネルギーの利用
- 大気・水・資源の枯渇
- 廃棄物管理
- 生物多様性への影響
- エネルギー効率
IATAは、「航空業界は2050年までに2005年比でCO 2排出量を半減する」というストレッチ目標(難易度の高い目標)を達成できると確信しています。さらに約10年後の2060年頃には、航空輸送において温室効果ガス実質ゼロ(ネットゼロ:温室効果ガス排出量と吸収量の差し引きゼロ)を達成する可能性も見出しています。
Ciriumの取り組み:乗客単位でフライトを360度可視化
Ciriumが昨年発表した報告書「Airline Insight Report」でも述べたように、Ciriumは航空機の仕様や性能、運航状況、追跡、航空スケジュールなど、多くの異なるデータソースを融合し、航空会社やリース会社ごと、機体の種類ごと、地域ごと、さらには過去や将来を見据えた座席単位のCO2排出量について、測定基準を明確にしたより分かりやすい情報を提供できるように懸命に取り組んでいます。現代に生きる私たちは日々、大量のデータと戦っています。だからこそ、排出量の測定とその統一基準を策定し、データを可視化することは大きな意味を持つのです。
Ciriumの計算で考慮するのは、機体とエンジンのシリーズ、ウィングレットのタイプ、シート配列、使用年数、実際の滑走時間と飛行時間です。加えて、航空機ごとに標準的な運航重量、乗客と荷物、貨物積載量、エンジン効率の低下に合わせて調整します。これらをリアルタイムの航空データと組み合わせることで、すべてのフライトを360度可視化することが可能になります。たとえば、Ciriumではワイドボディ機の燃料消費量の比率は99.8%と試算しています。つまり、Ciriumはどんなフライトでも自信をもって個別に最適な燃料消費量を計算できます。航空業界各社が独自に指標を作成する必要はありません。
Ciriumが測定したインサイトをもとにすると、航空業界各社は事業活動が環境に与える影響を定量化して理解することができます。そして、Ciriumが現在計画しているのは、CO2排出量データとフライト予約情報の統合です。これが実現すると、乗客単位で排出量を測定することが可能になり、環境への影響をより正確に把握し、コントロールできるようになります。航空業界各社が情報に基づいた意思決定を行える可能性は無限に広がっています。