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Ukraine

Ascend Consultancy, 即時分析, 航空専門家の視点

即時分析:ウクライナの緊急事態

March 3, 2022

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、いまだ不安定なヨーロッパの航空会社の回復過程に大打撃を与える可能性があります。

Cirium Analysis - on the fly

ウクライナの緊急事態

2月24日(木)に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、いまだ不安定なヨーロッパの航空会社の回復過程に大打撃を与える可能性があります。新型コロナウイルスのオミクロン変異株が需要の一時的な停滞をもたらした後、航空各社は、今夏の繁忙期に向けて力強く回復への道を歩んでいました。Ascend by Ciriumのシナリオでは、ヨーロッパにおける旅客輸送は、真夏までには2019年の80%の水準に近づくと予想していたのです。この予想が今回の紛争によって、根本的に危ういものになるかどうかを判断するのはまだ早過ぎますが、航空各社は既に、金利と石油・燃料価格の上昇という2つの逆風にさらされています。そのため、回復し始めたばかりの需要への影響は、どんな形であれ歓迎されないマイナス要因となるでしょう。

石油と天然ガスの重要な生産国であるロシアによる今回の軍事侵攻は、石油価格の高騰も引き起こしています。侵攻初日、ブレント原油価格は一時、1バレル当たり100ドルを突破し、その後、2月25日(金)に98ドルまで戻しました。100ドルという水準は、しばらく前の2014年9月以来、経験したことがありませんでした。短期的な市況の不確実性は、航空会社にとってはただリスクを高めることにしかなりません。その意味では、今後の数日間が、2022年の先行きを占う上で極めて重要になるでしょう。

その一方、不確実性が漂う現在のヨーロッパにおいても、一つだけ確かなことがあると思われます。つまり、民間航空のフライトが、しばらくの間はウクライナ上空を飛ぶことが不可能になる可能性が高く、さらに今ウクライナで故障による駐機(AOG)の状態にある航空機がそのまま稼働できなくなり、紛争が続く間ずっと、損傷や劣化の潜在的リスクを抱えることになるのです。

私たちは今、Ciriumのフリートおよび機材追跡データを活用して、その種の影響を受けている機材(および航空会社、リース会社)について、完全に把握できるようにしています。下にある表は、現在、西洋諸国製の計67機の商用ジェット機およびターボプロップ機が、ウクライナ国内の8つの異なる空港に駐機していることを示しています。

これらの機材の参考市場価値を合計すると、5億ドル超になります。世界の現行フリートを同様の市場価値に換算すると総額6,000億ドル超になることを考えれば、この金額はそれほど膨大ではないかもしれません。しかし、ウクライナの当該の駐機機材リストに含まれる機材を有するありとあらゆるリース会社は、自らの資産を失うリスク、そして不確実な保険ポジションによって資産価値を失う潜在的リスクをも抱えることになるのです。

このことを念頭に入れつつも、国際オペレーティングリースのリース会社(オペレーティング・レッサー)がリスクにさらされる度合いは比較的、限定的であるように思われます。ウクライナで今AOGの状態にある67機のうち23機のみが、11の異なるリース会社によって管理されています。この11社のうち、現在2機以上の機材を同国内に有しているのは4社のみです。

下の表の通り、Nordic Aviation Capitalは、6機のATR 72-600をウクライナのウインドローズ航空にリースしており、その参考市場価値は5,000万ドル弱になります。Fortress Transportation and Infrastructure(FTAI)は、ボーイングのシングルアイルおよびツインアイルの計5機をアズール・エア・ウクライナにリースしています。一方で、AerCapは2機をアズール・エア・ウクライナにリースし、1機のE195をウクライナ国際航空にリースしています。

現実的には、オペレーティングリースのリース会社が目下の紛争によりリスクにさらされる度合いは、比較的限られています。リース会社はロシアの明確な侵攻の意思表示を受け、実際に侵攻する前に賢明な行動を取り、リスクを軽減させました。紛争が始まった時点で、他のリース済み資産がウクライナに存在していないようにしたのです。ウクライナ国内に存在し続ける機材については、誰にとっても、事態を注視して結果を待つ以外、できることはほとんどありません。

この間、リース会社にとっては、ポートフォリオのロシア向けリース取引において、より広範なリスクが存在し続けることになるでしょう。米ドル建ての取引に打撃を与える大規模な経済制裁により、運航会社が月単位の賃貸料やメンテナンスリザーブ(保証金)を支払う能力にも影響が出る可能性があります。ロシア国外に本拠地があるリース会社は現在、同国内の航空会社に対し、計515機ほどの商用のジェット機およびターボプロップ機をリースしています。このリース取引の現在の参考市場価値は100億ドル弱で、現行の世界のリース・ポートフォリオ全体の価値の3.2%ほどを占めています。このような背景から、今回の紛争は、リース会社にとって非常に悪いニュースになる可能性があります。


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