Ciriumのグローバルコンサルタント統括を務めるRob Morrisが、SolÉir Aviation CapitalのプリンシパルであるLynn Guiney氏、そしてAscend by Ciriumのグローバルバリュエーション統括を務めるGeorge Dimitroffとバリュエーションマネージャーを務めるMichael Grahamを迎えて、Ascendの9月のウェビナーを開催しました。パネラーたちは、パンデミック後の回復、進化するリース業の状況、インフレの影響などについての洞察的知見を共有しました。Ciriumの最新データを活用しながらライブ配信で行われたこのウェビナーでは、主に以下のような知見が得られました。
市況はなお回復基調にあるが、成熟市場ではピークアウトした可能性がある
Michael Grahamはまず、輸送キャパシティをはじめとする最新のデータと予測を評価しました。Ciriumのスケジュールデータによると、市況は、主にヨーロッパの空港キャパシティの制約により夏場に一時停滞したものの、順調に回復傾向が続いています。Ascendは、航空会社が絶対的なキャパシティを維持しているため、今後も市況の上昇傾向が続くと予想しています。
しかし、回復は非同期的で、新型コロナウイルスを制御するための厳しい渡航制限政策をとる地域では大幅に遅れており、ロシアでは国際輸送が根本的に損なわれてしまっています。成熟市場の回復はひとまずピークを迎えた感があります。今後の進展は、中国市場が他のアジア地域の状況改善と並行して再開されるかどうかにかかっています。
Lynn Guiney氏は、世界経済の回復を続けるためにこの地域が重要であると指摘しました。「APAC(アジア太平洋)地域は成長のエンジンです。中国は今、眠れる巨人の状態ですが、それは変わると思います」。 同氏は、中国の渡航制限解除による地域間運航の再開が、需要回復のカギを握ることになると語りました。
George Dimitroffもこれに同意し、隔離期間の短縮を回復への明るい兆しとして挙げました。「この地域の市況が浮揚する可能性が出ているのは重要です。北大西洋市場が昨年末に再開して以来、見られたような状況がこのアジア太平洋市場でも再現すれば、ヨーロッパで浮上しているいくつかの課題を相殺することができるでしょう」。
価値とリース料は回復しているが、ツインアイル機はなお遅れている
2022年に入り、ほとんどの主要機種で順調に価値が回復しているものの、ツインアイル機の回復は若干遅れています。私たち航空関連業界が、価値サイクルの中でどのような位置にいるのかを理解するために、Michaelは2つの機材カテゴリーにおける市場価値(マーケットバリュー)と基準価値(ベースバリュー)の関係の変遷を調べました。そして、その2つのカテゴリーには、明確な乖離があることを指摘しました。
「シングルアイル機市場は、2018年から2019年にかけて非常にホットな状況でした」。 Michaelはそう説明し、次のように続けました。「しかし、すでに、そうした市場の熱が冷める気配は出ていました」。 基準価値に対する市場価値の比率は、パンデミック期には「1」を大きく割り込み、市場が苦境にあることを示していました。しかし、2022年には、シングルアイル機におけるこの比率は着実な回復傾向を示し、現在はイーブンに近い状態になっています。
ところが、ツインアイル機における比率は、2020年、2021年のそれぞれ半ばのAscendによるベースバリューの減損処理後も、低いままなのです。「前回サイクルのピーク時でも、比率が『1』になることはありませんでした」と、Michaelは説明しました。「これは、基準価値がやや高すぎることも要因になっていますが、供給過剰の兆候でもあります」。 パンデミックが始まった時の状況や、パンデミックによる混乱が長引いた影響をより強く受けているツインアイル機の状況を考えると、この格差はしばらく続くと思われます。このように低迷しているにもかかわらず、Michaelは、主要なツインアイル機の市場価値とリース料が、ゆっくりとではあるものの着実に回復の兆しを見せている点を強調しました。
リース部門は成長を続けており、市場全体にも影響を与えている
リース部門は、パンデミック期を通して、回復力を驚くほど保ち続けました。Fleets Analyzerのデータによると、昨夏は中古機材の新規リース量が過去2番目に多く、2020年8月には、オペレーティングリース会社が初めて世界の機材市場シェアの50%を超え、競争力のあるコストで機材を調達できる力量を示しました。
このような成長ぶりを考慮し、Lynn氏は、航空会社がバランスシートを効果的に管理する必要性を指摘しました。「航空会社は、このビジネスモデルの柔軟性、そして他では手に入らない機材にアクセスできる点を評価しています。バランスシートを効率的に管理できるのです」。 また同氏は、航空会社の考え方が、広範囲の路線網を有するネットワークキャリアから、リースのメリットの重視へと転換してきていることから、この成長が継続しないということはほとんどないと指摘しました。
Georgeは、航空会社は常に一定の数の機材は自社で保有しておきたいと考えるため、リース会社が実現できる市場シェアには上限があることを強調しましたが、機材所有の変化がもたらす長期的な影響についても言及しました。「リース会社が機材から利益を得る方法は(航空会社とは)異なります。意思決定の方法も異なります」。Georgeはこのように説明し、移行コストも信用リスクも高い機材を低いレートでリースし続けるよりも、過去の平均的な退役機齢より低い機齢で機材を退役させるインセンティブが高まっていると述べました。「フリートの財務上の所有権の割合が大きくなれば、フリートの動向に対しても、また市場の動向や価値に対しても影響を与えるかもしれません」。
マクロ経済上の最大の課題はインフレである
現在のニュース・速報を支配しているのは経済への懸念です。基礎的な指標も、景気後退リスクの増大を示唆しています。Michaelは自らのプレゼンテーションで、企業の購買担当者の景況感を表す購買担当者景気指数(PMI)が22カ月ぶりの低水準であること、米消費者物価指数(CPI)が連邦準備制度の目標値である2%を大幅に上回っていることなどを挙げ、主要指標が軒並みマイナス傾向にあると指摘しました。
Georgeは、リース料が金利に起因して直接的に上昇するのではなく、需要の高まりによって上昇していると論じました。「2001年までは、金利とリース料は非常に密接な関係にありましたが、それ以降はそうした関係性はなくなっています」。 Georgeはそう説明し、金利とリース料の間には世界経済を介して間接的な相関関係があり、需要と供給が主要な原動力になっていると語りました。「リース会社にとってはありがたいことに、どちらも同じ方向に動いているので、リース料の値上げという形でコストを転嫁することができるのです」。
資本コストを別とすれば、インフレは、これまでパンデミック後の業界の回復を牽引してきた旅客需要を、直接的に脅かすものです。しかし、その影響は、中央銀行の対応の方法に大きく左右されます。多くの中央銀行は今、航空会社がパンデミックを乗り切るための多額の負債を負っているときに、インフレ抑制を目的とした利上げを積極的に行っています。総合的に考えると、このインフレと利上げという二つの要因が重なれば、航空会社にとっての見通しは厳しく不確実なものとなり、パンデミック後の民間航空の回復を妨げることになるかもしれません。
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