Ascend by CiriumのJoanna Lu(アジア担当コンサルタント統括)が、Richard Evans(シニアコンサルタント)、Herman Tse(航空アナリスト)と共に、航空業界がサステナビリティ(持続可能性)を追求し、二酸化炭素排出のネットゼロという目標に向かって前進するための道筋を探りました。Ciriumの最新データを活用しながらライブ配信で行われたこのウェビナーでは、以下の5つの主要な洞察的知見が示されました。
課題は大きいけれど、取り組みは着実に進展を見せている
Richardは、はじめに環境に関する最近の状況と業界における現在までのサステナビリティの進捗状況について解説しました。世界の二酸化炭素排出に対して商用航空の占める割合は相対的に低く、2~3%と推定されていますが、この数値は先進国では非常に高くなります。旅客が年1回しか飛行機を利用しなかったとしても、飛行機利用がその旅客のカーボンフットプリントに占める割合は高くなる可能性があります。旅客フライトは、最も分かりやすい排出源の一つなのです。
航空業界による脱炭素化はここ30年間にわたって続けられており、進展を見せてもいますが、基本的には脱炭素化が難しい業界であり、そのためのコストも高くつきます。エンジンの効率性向上、機材の大型化、座席配置の高密度化、搭乗率の改善(コロナ禍以前)によって、航空輸送ユニットあたりの排出量は一貫して減少してきました。その減少率は、年間1%超の水準を20年以上にわたって持続しています。
しかし、この業界の二酸化炭素排出量は、需要とともに絶対的に増えてきています。新型コロナウイルスのパンデミックにより排出量は50%減りましたが、業績の回復とともに再び増大しています。
航空業界がますます、サステナビリティを無視できなくなっているのは明らかです。旅客、規制当局、投資家、そして業界はすべて、このセクターが脱炭素化を進める必要があると結論付けており、国際航空運送協会(IATA)も、世界の航空輸送業界の二酸化炭素排出量を2050年までにネットゼロにすると誓約しています。そのための課題は、増大する需要に対応しつつ、しかもコスト負担の少ない技術を活用しながら排出量を減らすことです。
ユニット別で見ても、排出量は大幅に削減された
ネットゼロを達成できるかどうかは、SAFとカーボンオフセットにかかっている
IATAと航空輸送行動グループ(ATAG)という2つの主要航空業界団体が、ネットゼロを達成するまでのロードマップを作成しました。これは、脱炭素化はどのように進めるのか、そして業界内のどの部分で排出量を削減するのかといったことを示しています。両団体ともに異なる想定と方法論を採用していますが、どちらのロードマップにおいても、改善のための最も重要な削減手段として、持続可能な航空燃料(SAF)と、二酸化炭素排出量を排出権の購入で相殺する「カーボンオフセット」が挙げられています。両団体の各シナリオでは、この2つで排出削減量の80%以上を占めることになります。
両団体のロードマップでは、いずれも目標から実行の段階に移行させる重要性が示されています。しかし、実際にはその移行過程は複雑であり、移行により重大な影響が出る可能性もあります。
「両方のロードマップともに、業界がどれだけ迅速に成長できるかといった要素に大きく依存しています。例えば、SAFがジェット燃料よりも桁違いに高いコストを要するのであれば、コストが増大することでSAFの需要の伸びが遅くなる可能性が高いです」
Richard Evans, Senior Consultant
航空会社自身は、いくつかの分野でサステナビリティに積極的に取り組んでいます。旅客、貨物輸送の際にカーボンオフセットを実行している航空会社は増えています。多くの航空会社がSAFを調達し、大量に使用することを公約しています。
航空会社は今、新世代機タイプを優先使用し、機齢が高く効率性の低い機材を退役させています。この動きは、パンデミックによる市況低迷に促され、目に見える効率化と節約を実現しようとするものです。とはいえ、フリートの硬直性により、”次世代”のシングルアイル機(例えば、737 MaxやA350)は、2040年までにフリート全体の70%以上を占めるようになるとなお見込まれています。これは、脱炭素化分野でさらに前進したいのであれば、燃料そのものから成果を引き出すか、または機体改造する必要があることを示唆しています。
ロードマップと長期的目標
簡単でコストのかからない解決策は存在しない
Ascend by Ciriumの航空アナリストであるHerman Tseは、ロードマップに示されている航空会社による解決策の実行に向けた課題について解説しました。最初に触れたのはSAFの導入です。
「ネットゼロを達成するには、SAFの導入が鍵になります。これまで多くの航空会社が、燃料供給企業との間で協力協定を結んできました。テストフライトの成功例は数多くありますが、サプライチェーン、インフラ整備、SAFの費用という大きな壁がまだ残っています」と、彼は述べました。
3月のAscendウェビナーで提起された通り、生産を拡大する能力についてはなお不透明ですが、投資は今後数年、数十年の間に飛躍的に増大すると見込まれています。
カーボンオフセットは、あらゆるシナリオで重要な部分を占めています。この方法は、2021年に導入されたCORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)の炭素取引制度により可能となったもので、航空会社も各自、オフセット(相殺)スキームを打ち出しています。それでも、Hermanが指摘したように、航空各社は現在、カーボンオフセットへの投資について、直接的な見返りを得ていません。旅客による自主的なオフセットは、まだ非常に少ない状況です。高くはつきますが、当面は航空会社による完全なオフセット措置が、最も効果的なアプローチです。
航空会社は今、水素燃料や電動の機材を発注しているものの、短期・中期的にそうした機材を商用機材と置き換える可能性は低いでしょう。電動航空機については、航続距離、ペイロード(有償荷重)の性能、バッテリーの安全性をめぐる数々の疑問が、解決されないままとなっています。水素燃料の関連インフラの整備に関しても、強い懸念が残されています。
進展具合を測る際には、背景状況が鍵となる
脱炭素化にまつわる課題を理解し、その成否を評価する際には、排出削減量を適切に測定することが極めて重要です。それは特に、排出量がコストを発生させ、運用益に影響を与えることを認識している投資家にとっては必須事項です。「グリーン」(環境に優しい)という用語については、業界全体で共通する定義はありません。狭い領域でしか通用しない個別の測定値が存在することで、投資家や旅客、航空会社による比較作業が難しくなっています。
Ciriumによる航空会社のESG得点表(スコアカード)モデルでは、過去、現在、将来を見据えたデータを組み合わせて、環境に関する航空会社の信用度についての客観的で偏りのない評価を行っています。このモデルでは、CiriumのGlobal Aircraft Emissions Monitor(世界機材排出量モニター)を活用し、資産を横断する11の基準を設け、航空会社に限定した測定値を算出して公正な比較を行います。
有償輸送キロあたりの二酸化炭素(CO2)測定量を算出することで、旅客専用航空会社と、貨物専用航空会社および貨客共用航空会社との比較が可能となります。また、このモデルでは、異なる特性や背景状況を盛り込んだ加重環境スコアも算出されます。Hermanはプレゼンテーションでいくつかの例を評価し、この得点表がどのようにして明確さを実現し、航空会社間の有効な比較を可能にしているかを実証しました。
3つの測定領域の計11の基準に基づく、環境に関する航空会社の信用度の客観的で偏りのない評価
一生懸命努力した企業が報われる
2050年までに航空業界の脱炭素化を実現することは難しく、非常に高い費用がかかります。現在のテクノロジーでは実現不可能であり、最終的には継続的な成長と両立しないことが証明されるかもしれません。大きな疑問がなお、解消されずに残っています。特に、コスト負担がどの部分にかかってくるのかという疑問です。
しかし、脱炭素化に対するインセンティブは準備されています。炭素排出には、規制当局や評価の高い投資家に負わされる多大なコストとリスクが伴います。重要なのは、社会の環境意識が高まり、投資家がESG目標に自ら関与する中、航空関連企業は今後、排出を削減すれば資金調達が容易になり、逆にそれができなければ競争に敗れるようになるということです。
業界は力を合わせて、明確な目標に向かって注力してきましたし、インセンティブやロードマップも用意されています。排出削減のためのテクノロジーと手法も特定されてきました。航空業界のサステナビリティにまつわる課題を理解することは、ネットゼロ達成に向けて具体的な成果を挙げるための大切な一歩となります。
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