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2024年に注目すべき航空業界の指標が生産量である理由とは


Cirium Ascend ConsultancyのChris Wills(コンサルタント統括)は、2024年の市場展望ウェビナーを総括し、私たちは(概ね)まだ上昇過程にあると結論づけました。





By Chris Wills, Head of consultancy operations, senior ISTAT appraiser

「私たちは(概ね)まだ上昇過程にある」という結論は、Cirium Ascend Consultancyの最新ウェビナー「まだ上昇中ですか? 2024年の航空市場展望」での議論から導き出されたものです。ウェビナーでは、Lalitya Dhavala(バリュエーションマネージャー)が司会を務め、Rob Morris(コンサルタント統括)とGeorge Dimitroff(バリュエーション統括)が、市場の主要素の2019年からの回復状況について議論しました。

概要

  • 旅客輸送量は昨年11月には2019年の水準にほぼ達しており、なお概ね増加傾向にあります。その増加率は2.5%とわずかに落ち込んだものの、まだ失速を示唆するものではありません。しかし、地政学的リスクとマクロ経済の動向には注意を払う必要があります。
  • 座席キャパシティは増加し、2024年初頭には2019年同期の水準を6%上回る見込みです。
  • 世界の旅客フリートは増加傾向にあります。既に2019年の水準を上回っており、その構成も変化しています。
  • 機材の稼働率も上昇中で、月間稼働時間は2019年の水準にほぼ戻っています。
  • 駐機・保管中の在庫機材は減少しています。(一時的に)保管中の低機齢の機材のうち約400機がGTFエンジン搭載機または737-9となっていますが、737-9の方はほとんど保管されていません。
  • 納入機数は伸び悩んでいます。2024年1月は、2023年同月と比べて納入機数、初フライト数ともに減少し、2019年同月よりも顕著に減少しています。
  • 高機齢の機材に対する需要は上昇を続けており、在庫機数、価値、リース料にそれが反映されています。
  • 商用機の受注残は増加傾向にありますが、統計的に正規化して配備フリートに占める割合で見ると、以前のような歴史的な高水準には達していません。
  • Cirium Fleet Forecastに基づけば、受注が増加する余地はあるものの、納入が目標より遅れているため、既にかなりの数になっている受注残がさらに増えることになります。
  • 逸話に富んだ事例報告が相次いでいるにもかかわらず、現実の取引の増加ぶりはほんの僅かなものです。
  • 機材の価値とリース料は上昇しており、金利が急速または大幅に低下しなければ、リース料はさらに上昇する余地があります。
  • 新造機材の価格は上昇しています。これは9・11米国同時多発テロ以降に見られた現象ですが、今回の景気サイクルにおいては同様の状況にはならないかもしれません。
  • 新造機の価値全体に占めるエンジン価値の割合は、予備エンジン、オーバーホール、LLP(ライフ・リミテッド・パーツ=寿命制限部品)の価格高騰に伴って上昇しています。しかし、これは新造機の価格上昇によってのみ持続し得るものであり、そうでなければ、エンジン価値とメンテナンスコストは、ある時点で必然的にその上昇速度を緩めることになるでしょう。
  • 2024年に監視すべき重要な点は機材の生産体制であり、当面は特に計画された増産に向けた進捗状況に注目したいところです。しかしながら、OEMが今後5年間に生産率を急激に引き上げれば、価値とリース料の上昇傾向を台無しにしかねないというリスクにも留意すべきです。
  • 現在は明らかに機材の品質が重視されるようになっているため、ボーイングは以前よりも低い市場シェアを受け入れざるを得なくなるかもしれません。
  • 改めて、2024年のAppraiser of the Yearにおいて私たちに投票してくださった皆様、本当にありがとうございました。

詳細情報

旅客輸送量の動きを見ると、依然として増加傾向にあります。ただし、昨年12月については、11月よりも伸びが鈍化したため、世界全体での増減率は2019年12月比で2.5%減となりました。アメリカを含む大規模な国内線市場では、需要がやや軟化した一方、座席キャパシティは増加しています。これは今後注視すべき点です。当然ながら輸送量は季節によって変動します。2019年の数字は12月のものですが、回復が依然として軌道に乗っているかどうかを判断するには、夏のシーズンが重要な意味を持ちます。

地政学的リスクは常に存在しており、今はむしろそのリスクは増大しています。

マクロ経済も考慮すべきですが、今のところ物価上昇は需要動向には影響を与えていません。

12月の減少は、ほぼ2019年の水準に戻った11月と比べて小幅な軟化傾向であり、少なくとも回復の失速を示すものではありません。

キャパシティが輸送量を上回るペースで増大することは長期的には健全ではありませんが、成長予測の先行指標となることもあります。予定座席キャパシティは、2023年末に2019年の水準をわずかながら上回り、今年第1四半期末までには2019年比6%増となる見通しです。

世界の旅客フリートは増大傾向にあり、今では2019年の稼働フリート規模を上回っています。確かに2024年のフリートは増大していますが、2019年のそれとは状況が異なっていることに注意しなければなりません。その一例として、市況が低迷した時期に事実上、すべての747-400が退役したことが挙げられます。

さらに、フリートが増えただけでなく、もうひとつの重要なキャパシティ指標である機材稼働率も上昇しました。機材の月間フライト時間は、ほぼ2019年の水準に戻っています。

駐機・保管機材の在庫は減少しており、再稼働しない機材もある一方で、復帰する可能性のある機材も相当数あります。現役復帰の有力候補となる機材は、保管期間が2年未満のものと、15年未満のものです。とはいえ、機齢15年以上の機材が1,000機もあります。通常なら復帰は期待できないものの、現在の制約のある供給状況を考えれば、復帰する機体が一部あるかもしれません。A320neoと737-9については、一時的に稼働を停止しているに過ぎません。今後数ヵ月は移動平均で約300機以上が駐機・保管されることになりますが、最終的にはすべてが復帰して運航されることになっています。

新造機の供給は、市場の成長に向けて伸び悩んでいる分野のひとつです。2024年1月は、2023年同月と比べて納入機数、初フライト数ともに減少し、2019年同月よりも顕著に減少しています。このような課題を惹起する要因は数多くあります。エアバスもボーイングも、現在の水準を上回る月次納入率を目標としているにもかかわらず、これからの1年間でそれを達成する見込みはなさそうです。それでも、このどちらかのOEMが2025年または2026年に計画目標を達成した後、さらに高い生産率を求めようとした場合には、長期的にみて機材の供給過剰が問題となる可能性があります。

商用機の受注残は増加傾向にあり、確定発注で14,000機に迫ろうとしていますが、配備(就航)フリートの割合は歴史的な高水準には達していません。シングルアイル機は2020年にピークに達して約85%となり(その年のフリートの混乱により偏りがあったとはいえ、それ以前のピークは2014年の77%でした)。一方、ワイドボディ機は、前回の景気後退期の2008年にピークの70%以上となりました。

Cirium Fleet Forecastに基づけば、10年後までの納入を見据えた受注拡大の余地はあります。しかし、既にかなりの規模になっている受注残と、OEM(航空機製造企業)が直面している納入面の課題(その一部は直近のAscend Forecastの終了後に浮上しています)を考えると、受注拡大の余地はどの程度あるのでしょうか?

リース付き機材の移動平均の売上が伸びている一方、昨年末の取引減少の影響もあり、また1月末に開かれたダブリンでの業界会合から伝えられた逸話的な示唆とも比較すると、予想されるよりも緩やかな上昇となっています。

すべての機材タイプに当てはまるわけではありませんが、大半の機材の価値とリース料は上昇しています。フリート加重平均ベースでみると、基準価値に対する市場価値の比率(MV・BV率)はコロナ禍前よりも高くなっています。

リース料は伸びているとはいえ、なお大体において価値の変動に追随しており、今年はさらに上昇する余地があります。コロナ下でどん底だった状況を考えると、最近の上昇ぶりはパーセンテージで見て顕著です。しかし一方、過去の水準と比較し、さらにインフレや金利を考慮すれば、リース料はそれほど高いとは言えません。また、機材の所有コストが、航空会社の直接運航コスト(DOC)の中で人件費、燃料費、整備費に次いで4番目に大きい項目であることは注目に値します。リース料が高騰しても、他のコストの上昇に比べれば、運航会社はそれほど痛みを感じることなく上昇分を吸収することができるのです。

新造機の価格は、長年にわたる停滞を経て上昇しています。これは2003年から2008年にかけても見られた傾向ですが、その後の世界金融危機で価格は暴落し、真に回復することはありませんでした。しかし、いくつかの理由から、今回の景気サイクルではそうならないかもしれないのです。受注残は非常に大きな規模となっており、それが2030年代まで続く見込みです。つまり、OEMは既に受注契約にエスカレーション条項の要素を組み込んでおり、これは新規納入価格の継続的な上昇という点で有利に働きます。供給の制約が続いている間は、それが新造機価格の上昇を下支えします。ところが、今後10年間の後半にその制約が克服され、OEMが過剰生産に転じれば、上昇傾向の一部が反転するか、上昇幅が横ばいになる可能性があるのです。

新造機の価値に占めるエンジンの価値の比率は上昇していますが、この状態が長く続くとは思えません。 新品の予備エンジン、オーバーホール、LLPの価格が上昇し続けるのであれば、機体の価値も上昇しなければなりません。そうでなければ、機齢の低い機材のパーツアウトを促す裁定取引が生じる可能性があります。解決策は、機材メーカーが新造機の価格を一貫して引き上げることです。一方でエンジンメーカーは、アフターマーケットからの収益への依存度を下げ、新造の搭載エンジンの販売価格を引き上げる必要があります。

2024年以降に注目すべきは生産率です。今のところ、納入目標を達成することについては、明確な課題があります。生産率の向上が切実に求められているのですが、もし生産量が今後10年間の終わりまで、あるいはそれ以降も増え続ければ供給過多の状態となり、価値とリース料が再び圧迫される恐れがあります。当然ながら、特に持続可能性の目標を達成するためには、需要を満たすだけでなく、機材のリプレースを促すためにも、新しい航空機が必要なのです。

競争という点では、デュオポリー(2社による市場独占)がなくなることはないでしょう。市場には、キャパシティの面でも価格競争力の維持の面でも、デュオポリーが必要なのです。

また、私たちは、ボーイングが737の価格を大幅に引き下げることができるとは思えないし、その意思もない(あるいはその必要もない)とみています。納入率が低いと単価は高くなります。とはいえ、納入が大幅に遅れた場合の補償により、航空会社が支払う実質的な最終価格が引き下げられる可能性もあります。かつてボーイングは市場シェアを守ることに注力していた可能性があるものの、現在は明らかに量ではなく質に焦点を移しています。過去に私たちは、どちらかのOEMの市場シェアが著しく低下した場合には、まったく新しい航空機プログラムの立ち上げを予想することもあり得ました。しかし、これほど大規模かつ長期的な受注残を抱えているため、短期的にはそのようなビジネス機会はあまりないと思われます。したがって、ボーイングは当分の間、過去20年よりも数量的に小さい市場シェアを容認することになるかもしれません。

Aircraft Appraiser of the Year

最後に、Appraiser of the Yearにおいて私たちに投票してくださった皆様、重ねて本当にありがとうございました。

私たちはこの栄誉に恥じないよう、最も多くの賞を受賞した鑑定士チームとして期待されるあらゆること、さらにそれ以上の努力をこれからも続けて参ります。


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